新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

指輪の妖魔

 リチャード=L=ティアニーの短編「セトの指輪」の話を以前した。大魔道士トート=アモンの持っていた蛇神セトの指輪はローマ皇帝ティベリウスの手に渡っていたという話だ。

それから2000年近い歳月が流れたわけだが、誰か権力者がまたハスターの指輪に魅入られたりしていないだろうか。

セトの指輪 - 新・凡々ブログ

 ──と書いたのだが、現代におけるセトの指輪の物語を実はロバート=E=ハワードその人が書いていた。"The Haunter of the Ring"という短編である。初出はウィアードテイルズの1934年6月号で、現在はThe Haunter of the Ring & Other Tales などに収録されているほか、オーストラリアのプロジェクト=グーテンベルクが無償公開している。
gutenberg.net.au
 セトがハスターの化身だというのはティアニーの後付け設定だが、"The Haunter of the Ring"は別のところでクトゥルー神話との接点がある。「われ埋葬にあたわず」で語り手を務めたジョン=キロワンが活躍するのだ。ちなみに語り手はマイケル=オドンネルという人物だが、「暗黒の民」の語り手であるジョン=オドンネルとの関係は不明だ。
 キロワン教授とオドンネルの友人であるジェイムズ=ゴードンは怖ろしい悩みを抱えていた。新妻のイヴリンが繰り返し彼を殺そうとしているというのだ。キロワンがイヴリンに会ってみると、彼女が指にはめていたのは三重にとぐろを巻いた蛇をかたどった指輪だった。いわずと知れたセトの指輪だが、元恋人のジョゼフ=ローロックが結婚のお祝いとしてくれたものだとイヴリンはいう。
 ジョゼフ=ローロックは本名をヨセフ=オルロックといい、かつてはキロワンと共に魔術を学んだ仲だった。だが、その邪悪な本性を見抜いたキロワンは彼と袂を分かったのだ。なおオルロックという名前が示すように、彼の正体は吸血鬼らしい。自分を袖にしたイヴリンをオルロックは逆恨みし、セトの指輪の力で招喚した妖魔に彼女の意識を操らせてゴードンに危害を加えようとしていた。報酬としてイヴリンかゴードンの魂を持っていってよいとオルロックは妖魔に約束していたが、心の清らかなものの魂には手出しができまいとキロワンは指摘し、代わりに妖魔がオルロックの魂を持ち去るよう仕向ける。我が身に術が返ってきた形でオルロックは破滅し、妖魔の餌食になってしまった。だが、これですら彼への報いとしては生易しいほどだとキロワンはいうのだった。かつてオルロックはキロワンの最愛の人を同様の手口で苦しめ、その人生をめちゃくちゃにしたことがあったのだ。
 ──という話である。ずいぶんとつまらないことにセトの指輪が使われている。だが「われ埋葬にあたわず」ではグリムランの怖ろしい運命を見届けるだけだったキロワンが華々しく活躍し、邪悪な魔術師を鮮やかな返し技で破滅に追い込んでいるのは注目に値するだろう。

The Haunter of the Ring & Other Tales (Tales of Mystery & the Supernatural)

The Haunter of the Ring & Other Tales (Tales of Mystery & the Supernatural)