新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ファットフェイス

 Cthulhu 2000 に収録されている作品のうち、未訳のままになっているもののひとつがマイクル=シェイの"Fat Face"だ。そして、この短編でシェイが新たに創造した怪物がショゴスロードである。優れた知能と高度な変身能力を備え、人間に化けて社会に紛れこむこともできるショゴスの上位種だ。
 物語の舞台になっているのは現代のロサンゼルス、主人公はパティという若い娼婦である。ファットフェイスというのは、パティのアパートの真向かいに住んでいる男の愛称である。水治療室を経営する傍ら、野良犬や野良猫のための保護施設をボランティアで営んでいるという人物で、たいして親しくないにもかかわらずパティは彼に好意を抱いていた。だがファットフェイスの正体はショゴスロードであり、施設に犬や猫を集めているのも実はショゴスの餌にするためだったのである。
 パティがファットフェイスの餌食になるまでの顛末をシェイは綴っている。まずパティの仕事仲間のシェリーが犠牲になり、ニューススタンドで売り子をしているアーノルドがパティに「狂気の山脈にて」を読ませてショゴスのことを警告しようとするが、うまく行かない。そして物語は無惨な結末を迎える。何の救いもない話だが、自分の周りから人がどんどん消えていって都市が空っぽになるという幻想にパティが囚われる一瞬の描写がいい。
 "Fat Face"はわずか500部の小冊子として1987年に発表された。作品の冒頭にも「狂気の山脈にて」からの引用が掲げてあり、ラヴクラフトへのオマージュであることが明瞭になっている。