新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ヤディスの円盤

 寺田旅雨さん(id:servitors)のツイートから。


 意識を保ったまま体を裏表逆にされるって怖すぎるよ! アフーム=ザーはそんな芸当ができたのかよ! できるかもな!
 こういう怖ろしいことをしでかしかねない神話存在として、ナグ=ソスすなわちヤディス星人がいる。「銀の鍵の門を超えて」で描かれた哀れな姿からは想像しづらいのだが、ロバート=プライスの"Saucers From Yaddith"によると彼らも結構えぐい趣味の持主なのだ。この短編はセミプロ誌Etchings & Odysseys の第5号(1984年)が初出だが、The New Lovecraft Circle に収録されているものが入手しやすいだろう。ご丁寧にも、英語版ウィキペディアに言及がある。

ロバート=M=プライスの短編小説"Saucers From Yaddith"(1984年)がほのめかしているところによると、ナグ=ソスの科学者は地球上で人類に対して種々の実験を行ったことがあるという──割と無害な実験(人間の血液型をBからAに変えてしまうといった実験)もあれば、かなり不気味な実験(「天使」が自分たちの手と眼を入れ替えたと主張する兄弟が中世ドイツにいた)もあり、この上なく怖ろしく忌まわしい実験もある。

http://en.wikipedia.org/wiki/Cthulhu_mythos_celestial_bodies#Y

 血液型を変えられたのは"Saucers From Yaddith"の主人公である。超常的な世界を発見するために薬物を服用した彼は、探索の最中にヤディス星人と遭遇し、気がついたら血液型が変わっていたのだ。ドイツの兄弟に関する逸話も作中で紹介されたものである。
 血液型が変わったのがヤディス星人の仕業であることを知らない主人公は、マーティン=ラダマントゥス博士という医師を助言者として見つけ出し、自分が所属している同好会の他のメンバーにも薬を服用させた。しかしラダマントゥス博士の正体はヤディス星人に他ならず、主人公以外のメンバーは生きたまま肉体をひとつの塊へとつなぎ合わされてしまう。実験が終わって意識を取り戻した主人公が目撃したものは、人間の肉体でこしらえられたジャングルジムとでもいうべき代物で、それは切断や縫合の跡がどこにもなかった。
 変わり果てた姿の仲間たちを見た主人公は斧をひっつかみ、声にならない苦悶の叫びを上げているそれを切り刻む。だがヤディス星人のおぞましい実験のことを知っているものは彼以外にはおらず、彼は猟奇殺人の容疑者として指名手配されてしまう。ヤディス星人にとって自分は逃げ出した実験動物のようなものだから、いずれ彼らは自分を探しに来るだろうと主人公が語っているところで物語は終わっている。
 というわけで、そのうちヤディス星人があなたの体を裏返しに来るかもしれない。なおリン=カーターによると、ドールに制圧された故郷から脱出したヤディス星人はズカウバ以外にもいたということであり、プライス博士の作品はこの設定を踏まえている。ヤディス星人はシュブ=ニグラスを崇拝するが、一方でドールもシュブ=ニグラスの眷属である。つまりヤディス星人とドールの争いは実は内輪揉めなのだが、シュブ=ニグラスはどちらに肩入れすることもなく放置しているらしい。

The New Lovecraft Circle: Stories

The New Lovecraft Circle: Stories

  • 発売日: 2004/03/30
  • メディア: ペーパーバック