クトゥルー神話の正統と異端
で、具現化した「星の戦士」(この存在自体はけっこう胡乱だと思うけど)の一柱として「光の巨人」、ティガを持ってきたのか。
「この銃がいいね」と君が言ったから - 泡沫の日々@はてな
旧神が胡乱でないのに星の戦士が胡乱だとすれば、それは後者が単発ネタだからだろう。スコット=コナーズによると、クトゥルー神話大系に対する自らの貢献としてダーレスは星の戦士のことをロバート=バーロウに自慢したそうだ。*1だが、ダーレスの作品で星の戦士が登場するのはマーク=スコラーとの合作「潜伏するもの」だけである。そしてダーレス以降の作家たちも星の戦士に関心を向けようとはしなかった。クリス=ハローチャ=アーンストのA Cthulhu Mythos Bibliography & Concordance を見ても、わずかに数編の同人小説が星の戦士を取り扱っているに過ぎない。旧神と星の戦士を区別する必要性すら怪しく、スコット=アニオロフスキーは『マレウス・モンストロルム』で「下級の旧神」を提唱した。もはや星の戦士の出番はなくなってしまったのだ。
これと対照的な例として、リン=カーターが考案した「ハスターとシュブ=ニグラスは夫婦」という設定がある。カーターがこの説を発表したのはかなり早く、1950年代のことだった。おそらくラヴクラフト&ビショップの「墳丘の怪」に「名付けられざるものの妻シュブ=ニグラス」という記述があることを踏まえて考え出された設定なのだろうが、胡散臭さという点では星の戦士に匹敵するものがある。だがカーターはこの設定を単発では終わらせなかった。20年も経ってから"The Horror in the Gallery"で再利用したのだ。そして追随するものが現れた。リチャード=L=ティアニーの"The Seed of the Star-God"はハスターとシュブ=ニグラスの婚姻を主題とする神話作品であり、ハスターが隕石の形で地球に送り込んだ胤をシュブ=ニグラスのもとに届けようとする魔王サクテとシモン=マグスが戦うという話である。ハスターとシュブ=ニグラスが夫婦であることはダニエル=ハームズの『エンサイクロペディア・クトゥルフ』にも記載されており、ひとつの説として広く認知されるに至ったといってよい。
クトゥルー神話において何が正統であり、何が異端であるかは公会議を開いて決めているわけではないので、ただ既成事実の積み重ねだけが物をいうのだろう。1970年代から80年代にかけてカーターはクトゥルー界を主導したが、その20年間に彼が積み上げたものは今日なお絶大な重みを持っている。しかし自らの神話を正統たらしめようという意図はカーターにはなかったように思われる。カーターの神話作品は何よりも彼自身の楽しみのためにあるものだったからだ。彼のそんなところが私は割と好きだ。
Cthulhu Mythos: Bibliography and Concordance
- 作者: Chris Jarocha-Ernst
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