新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ムノムクア

【ワシントン=勝田敏彦】米航空宇宙局(NASA)は米東部時間9日午前7時31分(日本時間同日午後8時31分)、氷の存在を調べる無人月探査機LCROSS(エルクロス)から切り離した2段目ロケットを月の南極に近いクレーター、カベウスに衝突させることに成功した。

http://www.asahi.com/science/update/1009/TKY200910090463.html

 そんなことをしたらムノムクアが! ムノムクアが眼を覚ましてしまうよ!
 ムノムクアはリン=カーターの創造した旧支配者である。ダニエル=ハームズの『エンサイクロペディア・クトゥルフ』ではブライアン=ラムレイの「魔道士の書」(The Sorcerer's Book)が初出ということになっているが、実はカーターの「月光の中のもの」(Something in the Moonlight)の方が先行しており、ハームズも第3版ではそのように訂正している。なお「魔道士の書」はThe House of Cthulhu などに、「月光の中のもの」はThe Xothic Legend Cycle などに収録されている。

The House of Cthulhu: Tale of the Primal Land (Tales of the Primal Land)

The House of Cthulhu: Tale of the Primal Land (Tales of the Primal Land)

The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter (Fiction Series)

The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter (Fiction Series)

 「月光の中のもの」はサンチアゴダンヒル精神病院を舞台にした短編である。ダンヒル精神病院に入院しているユライア=ホービイの日記と、彼の主治医であるチャールズ=ウィンスロウ=カーティス博士の記録を交互に並べたという体裁をとっている。ホービイは精神病院の中からカーティス博士を動かし、自分のために『ネクロノミコン』のコピーを入手させたりする。この辺は『羊たちの沈黙』のハンニバルレクター博士を何となく連想させるが、自分は旧支配者の秘密を人類に明かそうとしたために邪神の怒りに触れてしまったのだというホービイの主張がどこまで本当なのか曖昧なところが興味深い。いっそホービイがカーティス博士に語ったことは完全な妄想だったということにしてしまえば、ある意味すごい作品になったかもしれない。しかし結局ホービイは非業の最期を遂げてしまったので、不幸にも彼の主張は正しかったようだ。ホービイが怖れていたのはムノムクアだった。この神は蜥蜴のような姿をしており、月に住んでいる。またボクラグの主である。
 カーターの「深淵からの降下」によると、ムノムクアはかつてヤルナクに住んでいたが、ヴォルヴァドスに追われて地球に来たらしい。またカーター版の『ネクロノミコン』ではアルハザードが無名都市でムノムクアの像を目撃し、ここはかつてムノムクアの前哨基地として機能していたのではないかと推測している。しかしムノムクアはカーターの作品では概して扱いが地味であり、ラムレイの『幻夢の狂月』(Mad Moon of Dreams )でむしろ目立っている。そのためムノムクアを創造したのがラムレイであるという誤解が生じたのだろう。だがラムレイはムノムクアをカーターから借用したのであり、現に『幻夢の狂月』の冒頭ではカーターに謝意を表している。
 『幻夢の狂月』はラムレイの幻夢境三部作の第3部に当たり、ムノムクアはいわばラスボスである。旧支配者の中では小物ということになっているムノムクアだが、月を操る程度のことはやってのけるのであり、幻夢境に月がじりじりと落下してくる。機動要塞と化したセラニアンが月に特攻するが、旧支配者であるムノムクアには歯が立たない。その時、単身ムノムクアに戦いを挑む男がいた。幻夢境最高の賢者にして最強の戦士、イレク=ヴァドの王にして幻夢境防衛軍の最高司令官たるランドルフ=カーターその人だ。ラムレイの作品でカーターがここまで活躍するのは実はリン=カーターへの表敬のつもりだったのではないかと私は勘ぐっている。
Mad Moon of Dreams (New Adventures in H.p. Lovecraft's Dreamlands)

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