新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

探偵と議員

 事件記者ハリガンのシリーズの中で「探偵と議員」(The Detective and the Senator)は珍しく政治色が強い。中西部出身のマデルタップという上院議員が登場するのだが、どう見てもモデルはジョゼフ=マッカーシーだ。
 ハーバード大学元教授のファラーが新しい機械を発明し、シャーロック=ジュニアと名付けるところから物語は始まる。犯罪に関するデータを入力してやると推理を行い、犯人を見つけ出すという装置だ。自力では物証を挙げられないという弱点があるものの、シャーロック=ジュニアはすばらしい推理能力を発揮した。噂を聞きつけたハリガンはファラー元教授を取材しに行く。
 一方、世間ではマデルタップ上院議員ソビエト連邦の脅威を喧伝し、次から次へと共産主義者を告発していた。マデルタップの人格に疑問を抱いていたファラーが彼のデータをシャーロック=ジュニアに入力したところ、マデルタップには10万ドルの不透明な収入があるとシャーロック=ジュニアは指摘した。ファラーの要請を受けたハリガンはこのことを記事にしたが、怒り狂ったマデルタップがたちまち猛攻撃を加えてきた。ファラーとシャーロック=ジュニアは非米活動委員会に引きずり出される。その能力を試されることになったシャーロック=ジュニアは過去の有名な事件を検証してみせる。
「サッコとヴァンゼッティは無実である」
 シャーロック=ジュニアがそう出力するのを見たマデルタップは叫ぶ。「これこそは、この機械がアカの発明であるということの証左であります!」マデルタップはファラーに売国奴の烙印を押そうとするが、そのときシャーロック=ジュニアは……。
 最後に明かされた意外な真実はマッカーシーへの痛烈な批判となっており、ほとんどP.K.ディック的な趣がある。ダーレスがこの作品を発表したのは1953年、赤狩りの最中だった。徹頭徹尾リベラリストだったダーレスの面目躍如といった感がある。