新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

よくある誤解

H.P.ラヴクラフトの著作には、クトゥルーやハスター、ニャルラトホテプといった太古の神々は登場するものの、彼らは人間の考える善悪を超越した存在であるとされています、

善なる「旧神」と邪悪な「旧支配者」の対立、そして地水風化の属性などといった後付け設定は、ラヴクラフトが亡くなってからオーガスト・ダーレスが考案したものであって、真性のラヴクラフティアンからは蛇蝎のごとく嫌われています。

2009-12-24

 旧神が旧支配者を封印したという設定が初めて出てきた作品はダーレスとマーク=スコラーの合作「潜伏するもの」だが、この作品の初出はウィアードテイルズの1932年8月号、そして実際に執筆されたのは1931年の夏である。ラヴクラフトが死去したのは1937年3月15日だ。すなわち、旧神と旧支配者の対立という設定をダーレスが考案したのはラヴクラフト死後ではなく生前である。そしてラヴクラフトは「潜伏するもの」を読み、この設定のことを知っていた。では彼はどのように反応したのだろうか。
 ダーレスは初め「潜伏するもの」に「エリック=マーシュ」と題をつけ、ウィアードテイルズの編集部に送ったが、編集長のファーンズワース=ライトは受理しようとしなかった。そのことを知ったラヴクラフトは立腹し、ダーレスに宛てて書いた1931年8月26日付の手紙でライトのことを間抜け野郎と罵っている。そして「エリック=マーシュ」は力作だと褒めてダーレスを激励し、よりよい題名を考えてくれないかというダーレスの依頼に対しては次のように返答した。

新しい題名のことですが──「古なる邪悪の都」というのはどうでしょうか? あるいは「星の落し子の巣」では? 派手な題名を考えるのは得意ではありませんが、君が望んでいるのはそういうものだろうと思います。後で私の作品にもチョ=チョ族を出させてもらいますよ。

 この書簡はEssential Solitude に収録されている。
 ラヴクラフトの提案した二つの題名のうち、ダーレスは後者を採用した。そしてラヴクラフトは約束通り「博物館の恐怖」でチョ=チョ族に言及している。旧神が旧支配者を封印したというダーレスの設定をラヴクラフトは知っていたし、認めていたのである。

Essential Solitude: The Letters of H. P. Lovecraft and August Derleth: 1926-1937

Essential Solitude: The Letters of H. P. Lovecraft and August Derleth: 1926-1937