新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

2021-01-01から1年間の記事一覧

南国のラヴクラフト

1934年5月、ラヴクラフトはフロリダのバーロウ家に滞在中だった。「フロリダはいつもながら爽やかで元気が湧いてきます」「私の活力は北国にいたときの3倍です」とラヴクラフトは5月19日付でダーレスに書き送っている。現地の気温は華氏86度(摂…

一族の恥

Over the Edgeというアンソロジーが1964年にアーカムハウスから刊行されている。収録されている未訳作品のうちライバーの"The Black Gondolier"*1やロングの"When the Rains Came"*2は以前このブログで記事にしたことがあるが、今回はジョン=メトカーフ…

『幽霊狩人カーナッキ』余話

『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』が刊行されてから2年後、1910年にウィリアム=ホープ=ホジスンが幽霊狩人カーナッキの物語を発表した。ラヴクラフトがジョン=サイレンスを愛読していたことは有名だが、カーナッキに対する評価はどうだったの…

自転車に乗ったラヴクラフト

ラヴクラフトは1934年8月の下旬に初めてナンタケット島を訪れたと『H・P・ラヴクラフト大事典』にある。この年のラヴクラフトはロバート=バーロウに招待されて5月から6月までフロリダに滞在し、その後ニューヨークに行ってロング一家と一緒にニュー…

作家が作家を語る

ラヴクラフトと愉快な仲間たちの文通で怪奇幻想作家がどれだけ言及されているか数えてみた。英国怪奇三傑にエドガー=アラン=ポオとダンセイニ卿を加えた5人を対象とし、ラヴクラフトの文通相手として特に重要な5人について言及回数を調べることにする。…

アレクサンダー、アレクサンダー

クラーク=アシュトン=スミスは1932年3月25日付のダーレス宛書簡でアルジャーノン=ブラックウッドの本の感想を述べている。 最近ブラックウッドの本を何冊か借りて読みました――Tongues of FireとThe Garden of Survivalです。どちらもたいへん気に…

死者が汝の妻を寝取るだろう

クラーク=アシュトン=スミスの"The Dead Will Cuckold You"を日本語に翻訳してみた。 www7a.biglobe.ne.jp これはゾティークを舞台にした戯曲で、執筆中であることをスミスは1951年2月22日付の手紙でダーレスに知らせている。4月15日、完成した…

眠っている人たち

昨日の記事で言及した"The Sleepers"という短編のことをダーレスは1926年9月6日付の手紙でラヴクラフトに報告している。 申し上げるべきかどうか迷ったのですが、"The River"を書き直したらライト氏がついに受理してくれました。現在は"The Sleepers"…

最初と最後のジョン=サイレンス

ラヴクラフトの蔵書目録によると、彼の家には『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』が2冊あったそうだ。1冊目は1908年にロンドンで刊行された初版本、2冊目は後にニューヨークで再版されたものだという。2冊目はダーレスからの贈物なのだが、ラヴ…

オンライン墓参り

Find a Graveというウェブサイトがある。 www.findagrave.com 墓地のデータベースであり、ラヴクラフトと愉快な仲間たちのお墓を見ることができる。オンライン献花も可能だが、検索機能はさほど強力ではないようだ。たとえばダンセイニで検索しても有名な1…

「アウトサイダー」余話

「アウトサイダー」について、ラヴクラフトは1931年6月19日付のヴァーノン=シェイ宛書簡で次のように述べている。 私は無意識のうちにポオを逐一なぞっており、その極致として「アウトサイダー」は代表的なものです。当時は作風を真似るだけでなく、…

丘の太鼓

今から100年前、1921年にラヴクラフトが執筆した小説はかなり数が多いが、そのひとつが「アウトサイダー」だ。ウィアードテイルズの1931年6-7月号に「アウトサイダー」が再掲されたとき、クラーク=アシュトン=スミスは1931年6月6日付…

アンポイの根

クラーク=アシュトン=スミスがダーレスに宛てて書いた1931年8月18日付の手紙より。 「ガーゴイル像彫刻師」についての御意見はすごくいいですね。ベイツから原稿が返ってくるようなら採用させていただきます。予定どおりに戻されないところを見ると…

絶対安全キノコ

ダーレスがラムジー=キャンベルに宛てて書いた1962年5月11日付の書簡より。 1964年に刊行予定のアンソロジーをどうするか計画はあまり固まっていませんが、君の作品は必ず収録を検討させてもらいますよ。ですが第一に君の単行本です。そちらのほ…

深淵の夢

今から100年前に書かれた作品として「イラノンの探求」を一昨日の記事で取り上げたが、ラヴクラフトは同じ年に「蕃神」も執筆している。The Fantasy Fanの1933年11月号に「蕃神」が掲載されたとき、ラヴクラフトは1933年11月29日付のクラー…

ラヴクラフトの自称弟子

アーカムハウスから刊行されたラヴクラフトとゼリア=ビショップの合作集についてボビー=デリーが記事を書いている。 deepcuts.blog 1937年にラヴクラフトが亡くなり、ダーレスたちが彼の代作や合作を探し回るところから話は始まるのだが、そのとき助言…

頌春

新年あけましておめでとうございます。 丑年に因んだ記事でも書こうかと思ったのだが、クトゥルー神話に出てくる牛を思いつかない。しばらく本棚を漁ったら、ナイアーラトテップの化身として「黒い雄牛」が『マレウス・モンストロルム』に載っていた。199…