頌春
新年あけましておめでとうございます。
丑年に因んだ記事でも書こうかと思ったのだが、クトゥルー神話に出てくる牛を思いつかない。しばらく本棚を漁ったら、ナイアーラトテップの化身として「黒い雄牛」が『マレウス・モンストロルム』に載っていた。1992年にドイツで刊行されたTRPGのシナリオが元ネタらしいが、あいにく私は読んだことがない。
クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム (ログインテーブルトークRPGシリーズ)
- 作者:スコット・アニオロフスキー,ほか
- 発売日: 2008/02/25
- メディア: 単行本
1934年、ペンシルヴェニア州レディングでThe Galleonなる文芸誌が創刊され、その編集長はラヴクラフトの知人だったロイド=アーサー=エシュバックだった。寄稿を求められたラヴクラフトが送ったのが「イラノンの探求」で、同誌の1935年7-8月号に掲載された。なお同じ号にダーレスの詩も載ったという。ワンドレイの努力が8年越しで報われたことになるが、ラヴクラフトは1935年4月23日付のダーレス宛書簡で次のように述べている。
我らの友人エシュバックは採用の基準を引き下げつつありますよ。あの感傷的な「イラノン」が受理されました。かつて私のために原稿を清書してくれたのは君でしたね――それから「ユゴス星より」の詩も2編*1The Galleonに載せるそうです。
実際に清書したのはワンドレイなのだが、なぜかラヴクラフトの記憶の中ではダーレスの仕事になっている。ダーレスもやたらとラヴクラフトの原稿を清書したがっていたので、つい混同してしまったのだろうか。この二人が後に力を合わせてアーカムハウスを立ち上げたことを思うと、奇妙な感慨を覚える。
こうして「イラノンの探求」は日の目を見たが、その肉筆原稿はロバート=バーロウの手に渡っていた。実はドナルド=A=ウォルハイムも欲しがっていたのだが、彼との先約を度忘れしたラヴクラフトがバーロウにあげてしまったのだ。「本当に申し訳ありません」とラヴクラフトは1935年11月13日付のウォルハイム宛書簡で謝り、代わりに「闇の跳梁者」の肉筆原稿を贈ったが、その所在はウォルハイムの没後わからなくなっているそうだ。もっともバーロウも「超時間の影」の肉筆原稿をメキシコに持っていったきり行方不明にしてしまい、1995年にハワイでようやく見つかったという出来事*2があったりするので、その点ではウォルハイムと甲乙つけがたい――というか丙丁つけがたい。
とりとめがなくなってきたところで今年最初の記事を終えたい。皆様、どうか本年もよろしくお願い申し上げます。
*1:「背景」と「港の汽笛」。ただし実際に掲載されたのは前者のみ。