クラーク=アシュトン=スミスがダーレスに宛てて書いた1931年8月18日付の手紙より。
「ガーゴイル像彫刻師」についての御意見はすごくいいですね。ベイツから原稿が返ってくるようなら採用させていただきます。予定どおりに戻されないところを見ると、彼は発行人の反応を見るために保留しているに違いありません。奇妙なことです――僕は何にも増して話の結末を書くのが苦手なようです。不発に終わった作品が今も手許にひとつありまして――「ジム=ノックスと女巨人」というのですが――売り物にしようと思ったら真新しい結末を与えてやる必要がありそうです。
「ガーゴイル像彫刻師」に関するダーレスの提案は8月14日付の彼の手紙に詳しく書いてあり、現行の結末が彼の案に沿って書き直したものであることがわかる。スミス自身が考えた当初の結末は、ガーゴイルが生きていることに彫刻師が気づくというだけのものだったらしい。
ベイツというのはアスタウンディング誌の編集長だったハリー=ベイツのこと。彼は結局「ガーゴイル像彫刻師」を没にしたが、新しい結末のほうが良いと意見を述べている。後にウィアードテイルズが受理し、1932年8月号に掲載された。
「ジム=ノックスと女巨人」は今日"The Root of Ampoi"という題名で知られている短編。サーカスで見世物になっているジム=ノックスという大男が、自分の背が伸びた経緯を巡業先で医者に語るという話だ。まだノックスが人並みの身長だった頃、彼は水夫だった。インドネシアを訪れた彼は、ニューギニアの奥地にあるという不思議な村の話を現地の豪族から聞かされる。その村はたいそう見事な大粒のルビーを産出し、遠来の客に気前よく譲ってくれるというのだが、特筆すべきは男女の体格差だった。男性は普通の背丈なのに、女性は身長が9フィート(2メートル70センチ)もあるそうなのだ。
ルビーの話に心を動かされたノックスはその村を探す旅に出て、苦難の末に見つけ出した。豪族から聞いたとおり女性は何とも立派な体格をしており、男たちは文字通り小さくなっていた。聞くところによると女性も以前は普通の背丈だったのだが、ある女が不思議な植物の根を食べて体を大きくし、他の女たちも彼女に倣ったのだそうだ。
女性たちは生まれつき体が大きいわけではなく、その根を食べることによって背が高くなる。しかし彼女たちは根を自分たちだけのものにしておき、男には絶対に在処を明かそうとしなかった。まんまと根を見つけて食べたノックスは大きな体になったが、そのことを知った女性たちは彼を村から追い出してしまった。9フィートもの背丈になって米国に帰ってきた彼は以来ずっとサーカスの大男として暮らしを立てているのだった。
スミスはこの作品をウィアードテイルズなどに送ったものの受理されず、アーカムサンプラーの1949年春季号が初出となった。実に18年がかりで日の目を見たことになる。アヴェロワーニュやゾティークなどのシリーズに属する作品ではないからか、今のところ邦訳はない。物語の舞台になっているのはカリフォルニア州のオーバーンで、これはスミスの地元でもある。「サーカスがオーバーンにやってきた」で始まる冒頭部がまことにブラッドベリ風なのだが、無論これは話が逆で、実際にはレイ=ブラッドベリがスミスから影響を受けているわけだ。
余談ながらスミス自身の身長は180センチ、ついでに体重は63キログラムだったという。この数値は天本英世と同じなのだが、そういえば顔もなんとなく似ていないだろうか。
魔術師の帝国《3 アヴェロワーニュ篇》 (ナイトランド叢書4-1)
- 作者:クラーク・アシュトン・スミス
- 発売日: 2020/07/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)