地名だったり人名だったり
ラヴクラフトが1934年9月25日に書いたロバート=バーロウ宛の手紙より。
ブロック少年のことですが――まことに将来有望だと私は考えています。君ほど卓越しているわけではありませんが、進歩しつつありますよ。
ロバート=ブロックは見込みがあるけど、君には及ばないと書いてバーロウの自尊心をくすぐるラヴクラフト。もっとも、ここで彼がしているのは小説ではなく絵の話だ。
ですが、もちろんブロックには改善の余地が大いにあります――彼の命名法は実におもしろくて……私がこしらえた名前を間違った意味で使ったりするんですよ。たとえば「ヤディス」を惑星ではなく人物の名前として使っています。
御存じのようにヤディスはラヴクラフト&プライスの「銀の鍵の門を超えて」に出てくる惑星の名前であり、魔道士ズカウバの出身地である。ヒュー=B=ケイヴも"The Isle of Dark Magic"でユゴスを神名としているし、クトゥルー神話の黎明期には混乱があったのかもしれない。その原因が情報不足だとしたら、フランシス=T=レイニーやリン=カーターが作ったようなクトゥルー神話小辞典にも意義があったということだろう。
ただしアンブローズ=ビアスが人名としたハリがロバート=W=チェンバースの作品で地名になるという前例もあるし、ブロックの改変も勘違いではなく意図的なものだったのかもしれない。なおブロック本人に送った手紙ではラヴクラフトは細かいことをいわずに褒めている。
「きわめて興味深いです。黒きヤディスとシュブ=ニグラスの怪物的な姿に私はすっかり魅了されました」とラヴクラフトはブロック宛の手紙で述べているのだが、してみるとブロックはヤディスだけでなくシュブ=ニグラスの絵も描いていたのだろう。ラヴクラフトの作品でシュブ=ニグラスの姿が具体的に描写されたことはないが、若き日のブロックが一体どんなふうに解釈したのか気になるところだ。やはり山羊のような恰好だったのだろうか。