おいしいものが食べたい
幸いなことに、私は倹約生活の問題を科学と化さしめてしまいました。豆やスパゲッティの缶詰と箱入りのクッキーやクラッカーを買うことにより、私は毎週わずか1ドル75セントで済ませられるのです。
『クトゥルー神話全書』97ページ
自分の食費は1週間あたり1ドル75セントだというラヴクラフトの言葉をリン=カーターは『クトゥルー神話全書』で引用している。実は訳註をつけ忘れてしまったのだが、これはロバート=バーロウに宛てた1934年4月10日付の手紙が出典だ。
ラヴクラフトは同じことを1934年4月29日付のバーナード=オースティン=ドワイヤー宛書簡や1934年5月26日付のヘレン=V=サリー宛書簡でも述べている。いずれの手紙もアーカムハウスの書簡集第4巻に収録されているが、この本はジェイムズ=ターナーが1976年に刊行したものだから、『クトゥルー神話全書』の参考資料として使うことはできなかったはずだ。たぶんカーターはダーレスから手紙の現物を見せてもらったのだろう。
この1ドル75セントという金額が現在の貨幣価値でいくらに相当するのかといえば、消費者物価指数を基に計算して30ドル弱である(参考)。それで1週間しのぐのは結構しんどそうだが、さらに1ドル40セントまで切り詰めることに成功したなどとラヴクラフトは1934年6月25日付のバーロウ宛書簡で報告している。
ラヴクラフトは見栄を張っていたとカーターは述べているが、これはおそらく正鵠を射た指摘である。ラヴクラフトの貧乏を見かねたハリー=ブロブスト*1が鶏肉料理の晩餐をおごってあげたところ、とても嬉しそうにしていたとウィル=マレーの"Autumn in Providence"にあるからだ。本当はラヴクラフトもおいしいものが食べたかったのだろう。
書いていて涙が出そうだ。
- 作者: リン・カーター,朝松健,竹岡啓
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