新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ネクロノミクロン

 昨日に引き続きH. P. Lovecraft: Letters to Robert Bloch and Others を読んでいる。1934年7月下旬のロバート=ブロック宛書簡には「納骨所の秘密」の感想が書いてあった。

「納骨所の秘密」の現存する部分をありがとうございました。まことにすばらしく、この作品を受理するだけの鑑識眼がライト編集長にあったのは慶賀すべきことです。着想は秀逸ですし、展開の仕方も称賛すべき迫力で緊張感と潜伏する恐怖を現出させるものになっています。

 「現存する部分」とは変な言い方だが、ストレンジ家の最後の生き残りによる手記の断片という体裁をとった作品だからだろう。

厳密に美的な観点から批評するのであれば、形容詞や不気味な修飾をもう少し控えめにするようお勧めすべきなのでしょう――ですが君も御存じのように、私個人としてはそういったものが好きですし、自分でも使ってみたいという性癖をいつも抑えつけねばならずにいます。

 確かに「納骨所の秘密」は修飾語が過剰で、若書きの感は否めない。ラヴクラフトさんの猿真似をしてはならないとダーレスがブロックに説教するのも宜なるかな

ところで――『ネクロノミコン』からの引用のことですが――本来なら二行目の始まりはForではなくAndです――ですが、どちらでも大した違いではありません。それからNECRONOMICONという綴りには注意してくださいよ――最後の音節にはRがないのです。これはどちらでもいいというわけにはいきません。この言葉は本物のギリシア語が語源でして、-IKONという接尾辞を認識できるようにしておかなければならないからです。

 というわけで、ブロックは『ネクロノミコン』の綴りをNECRONOMICRONと間違えていたらしいのだが、ラヴクラフトは細かいところまでよく見ている。なおラヴクラフトの手紙にある「引用」というのは有名な対句「永久に横たわるものは死せずして……」を指しているものと思われるが、結局「納骨所の秘密」には出てこなかった。おそらくファーンズワース=ライトが削除してしまったのだろうとS.T.ヨシは推測している。