新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

頼りになるけど鬱陶しい兄貴

 ラヴクラフトのロバート=ブロック宛書簡集がヒポカンパス=プレスから刊行されたので買ってみた。
H. P. Lovecraft: Letters to Robert Bloch and Others : Hippocampus Press, specializes in classic horror and science fiction
 約500ページのペーパーバックだが、そのうちブロックの分は170ページ程度。彼だけでは一冊の本にできないので、ケネス=スターリングら7人と抱き合わせになっている。一人の人間から送られてきた手紙としては170ページは相当な分量だが、たとえばロバート=バーロウ宛書簡が400ページもあるのに比べると少ないといわざるをえない。
 ブロックと知り合って間もない頃、彼から送られてきた作品を読んだラヴクラフトは「よく書けている」と褒めた上で、ダーレスやC.A.スミスに助言してもらうことを勧めた。1933年6月21日付の手紙でラヴクラフトは次のように述べている。

ダレット伯爵から返事が来たそうで何よりです。彼が君の作品を粉々にしてしまったからといって気に病んだらいけませんよ――ダーレスはとても厳しいかもしれませんが、行き過ぎているように見えても彼の指摘には価値があるのです。ピッツバーグに19歳の子が住んでおりましてね(原註:J=ヴァーノン=シェイのこと)――とても才能のある若者なのですが、伯爵の忌憚ない意見にたいそう傷ついてしまったものですから、二度とソークシティには原稿を送らないでしょう! でも、ブロック君は彼と違って怯んだりしないだろうと信じておりますよ。ダーレスはすばらしい男ですが、ちょっと尊大で自己中心的なところがあります。ですが彼の尊大さはいずれ消えてなくなり、後には本物の才能だけが残ることでしょう。我々一座の中ではダーレスこそが最大の成功者になるはずだと私は本気で考えているのですよ。

 どうやらブロックはダーレスからかなり手荒な扱いを受けたようだ。この頼もしくて鬱陶しい兄貴分とブロックのつきあいは40年近くも続くことになるが、ラヴクラフトはブロックを励ましつつダーレスのことも推している。プロの作家として生きていこうとしているブロックには、ダーレスのように厳格な指導者をつけてやる必要があるということだろうか。ラヴクラフトの配慮と先見の明が窺える。

Letters to Robert Bloch and Others

Letters to Robert Bloch and Others