新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ネクロノミコン

 ラヴクラフトにはヴァーノン=シェイという友人がいた。あまり有名な人ではないが、『定本ラヴクラフト全集』や『真ク・リトル・リトル神話大系』に彼のエッセイが収録されている。
 シェイは怪奇小説もいくらか書いており、そのひとつに「ネクロノミコン」という掌編がある。未だかつて英語圏では出版されたことがないというほど知名度の低い作品だが、ダン=クロアのサイトで読むことができる。
web.archive.org
 「ネクロノミコン」の主人公はストウクロフトという作家だが、これは明らかにラヴクラフトがモデルだ。ストウクロフトの創造した架空の魔道書『ネクロノミコン』が次第に現実を侵蝕していくという話で、自分の招喚したナイアーラトテップにストウクロフトが殺されてしまうという結末になっている。ラヴクラフトがモデルの登場人物を作中で殺してしまった例としてはフランク=ベルナップ=ロングの「喰らうものども」やロバート=ブロックの「星から訪れたもの」が有名だが、シェイの「ネクロノミコン」も一例といえるだろう。なお、この作品はラヴクラフト自身も読んだことがあり、手ずから註釈を加えている。

2021年1月24日追記

 クロア氏のサイトが消滅したので、インターネット=アーカイブへのリンクに差し替えた。白状すると、クロア本人がシェイに仮託して創作したものではないかと疑ったこともあるのだが、この作品の初出とされるフランス語のファンジンは実在するらしい。
cthulhuandco.jimdofree.com