新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

魔道士の夢

 ブライアン=ラムレイに"The Sorcerer's Dream"というクトゥルー神話小説がある。連作短編集The House of Cthulhu の最終話にあたり、魔道士テフ=アツトが語り手だ。ちなみに、ガタノトーアはクトゥルーの息子であるというリン=カーターの説がこの作品でも使われている。
 ある時、テフ=アツトは夢の中で一切の「始まり」と「終わり」を目撃した。クトゥルーを筆頭とする旧支配者の地球への到来と、彼らが旧神との大戦に敗れて幽閉されたことが「始まり」だ。それでは「終わり」とはどのようなものなのか? テフ=アツトによるとクトゥルーは何度も覚醒し、そのたびに再び眠りに就くそうである。そして宇宙が冷えきった遙かな未来、地球においても生命はすべて死に絶えていた。しかし旧支配者は滅んでいなかった――未知なる永劫が果てるとき、大いなるクトゥルーが最後の復活を果たす!
 すべての旧支配者が集結し、クトゥルーに臣従を誓う。ラムレイはクトゥルーを旧支配者の首領と見なしているので、ヨグ=ソトースですらクトゥルーより格下なのだ。*1しかし自分が支配すべき宇宙がすでに骸と化していることを知って、クトゥルーは激怒するしかなかった。その時、テフ=アツトはクトゥルーと眼が合ってしまったのだった……。
 ……という話である。クトゥルーは死を超えたが、宇宙のほうは超えられなかったわけだ。短い作品だが、ある意味ではラムレイ神話の掉尾を飾る一編といえるだろう。もっとも、テフ=アツトの見た夢が真実なのかどうかは定かでない。

*1:ただしアザトースは旧支配者ではなく、宇宙生成の原動力ともいうべき別格の存在。