新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

祭壇と蠍

 ロバート=E=ハワードに"The Altar and the Scorpion"という掌編がある。ヴァルーシアの大王カルが主役のシリーズに属する作品だ。
 廃墟と化しかけている神殿で、一人の少年が祭壇の前に跪いているところから物語は始まる。祭壇の上に安置されているのは巨大な水晶のサソリだった。「黒い影」と呼ばれる神を崇拝する邪教が都市を支配しており、大祭司のグロンが少年と彼の恋人を生贄にしようとしているのだ。カルに率いられた解放軍が都市に向かって進撃中だが、彼らがやってくる前に生贄の儀式は執り行われてしまうだろう。
 追いつめられた少年はサソリの神に助けを求める。自分の先祖であるゴンラが信仰を守るために戦って死んだことを思い出し、どうか自分と恋人を守ってほしいと少年は訴えたが、そのとき少女が神殿に駆けこんできた。
「グロンが来るわ!」
 不気味な長身の男がその後から追いかけてきた。グロンだ。サソリの神など女子供の迷信に過ぎないと彼は嘲笑した。
「我が僧兵どもが隊伍を整えておる。今からカルが来ても間に合わんぞ!」
 グロンは二人を縛り上げて連れ去ろうとするが、不意に苦悶の叫び声を上げた。何百年も前に都市から姿を消したはずのサソリが少女の胸を這っていたのだ。サソリは少女を害しようとはしなかったが、グロンが彼女の体に手をかけたとたんに刺し、猛毒にやられたグロンは神殿の床に倒れて絶命した。
「神様が僕らを守るために遣わしてくれたサソリなんだ!」
 二人は水晶のサソリの前に平伏して感謝の祈りを捧げた。神殿の外から馬蹄の音が聞こえてくる。待ち望んでいた大王カルの軍勢がついに到着したのだった。
 カルの話のはずなのにカルが最後まで姿を見せず、1967年になるまで日の目を見ることがなかったという作品だが、アトランティスの時代における信仰の一端を垣間見させてくれるという点で興味深い。カルのシリーズに属する以上、クトゥルー神話大系の一部と見なすこともできるだろう。
 ところでブライアン=ラムレイの神話作品にもサソリの神が登場する。太古のティームドラ大陸で信仰されていたアホラ=イズという神で、よこしまな人間には容赦なく罰を加えるが、心の正しいものには福運を授けてくれる。また義侠心に富んでおり、Sorcery in Shad のクライマックスでは旧支配者イブ=ツトゥルに立ち向かう主人公たちに助太刀してくれた。もしかして"The Altar and the Scorpion"の蠍神とアホラ=イズは同じ神なのだろうか?

Kull: Exile of Atlantis

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Sorcery in Shad (Tales of the Primal Land)

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