新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

塔の鐘

 『ラヴクラフト全集』(創元推理文庫)の7巻に「末裔」という断章が収録されている。ノーサム卿という変人がロンドンに住んでいて、教会の鐘が鳴るたびに悲鳴を上げるという話だ。いかんせん短すぎるので、ラヴクラフトがどんな展開にするつもりだったのかは全然わからないのだが、リン=カーターがこの断章を補って"The Bell in the Tower"という短編を書いている。
 "The Bell in the Tower"の前半はラヴクラフトの文章がそのまま使われている。カーターが書いた後半では、ノーサム卿が鐘の音を怖れるようになった理由が明かされている。
 ノーサム卿が住んでいた城の塔は彼の先祖の手によって最上階が封印されていた。ノーサム卿が封印を破って立ち入ると、そこには鐘が設置されていた。鐘の音によって精神を特殊な状態に置き、異界を見る方法が『ネクロノミコン』に記されていることをノーサム卿は突き止める。塔の鐘がそのためにあることを知った彼は自分でも試し、見事に成功する。
 塔の窓から見えるのは異界の風景で、様々な服装の人々が道を歩んでいた。彼らは様々な時空からやってきた巡礼らしく、人にあらざるものも中には混じっている。彼らが自分の城を目指しているらしいことを知ったノーサム卿は、城の基底となっている岸壁に掘り抜かれた洞窟があるという伝承を思い出す。
 ノーサム卿は地下室へと降りていき、隠された地下堂を発見して足を踏み入れる。そこには巨大な棺があり、棺の中に横たわっていたのはノーサム卿が塔の窓から見た異界の住民に他ならなかった。ノーサム卿は『ネクロノミコン』を焼き捨て、先祖伝来の城を去ってロンドンへと逃れる。なぜなら、棺の中にいた人ならざるものの顔には、ノーサム卿の一族の特徴となっている容貌がはっきりと見て取れたからだ……。
 というわけで、「アーサー=ジャーミン」と「破風の窓」を混ぜ合わせたような話なのだが、なかなか雰囲気があった。カーターの神話小説にしては異色作といえるかもしれない。この作品はThe Xothic Legend Cycle に収録されている。

ラヴクラフト全集7 (創元推理文庫)

ラヴクラフト全集7 (創元推理文庫)

The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter (Fiction Series)

The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter (Fiction Series)