新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ダーレスの伝記

 ドロシー=M=グローブ=リタースキーという人が書いたダーレスの伝記を前に紹介したことがあるが(参照)、この本はダグラス=A=アンダーソンのブログでも取り上げられている。
Lesser-Known Writers: Dorothy M. Grobe Litersky
 リタースキーが2002年に86歳で亡くなっていたとは知らなかった。彼女がダーレス伝を完成させたのは1997年のことなので、当時すでに80を超していたわけだ。本の内容について、アンダーソンは次のように述べている。

リタースキーの描くダーレスは自己中心的で不遜で好色な策士であるが、そんな彼の人となりや作品をなぜ皆が尊敬し、愛しすらしたのかは語られていない。そして特にダーレスの文学に関しては、およそ紙幅が割かれていない。

 私の感想もまったく同じだ。なぜダーレスが大勢の人に愛されていたのかはリタースキーの著作では謎のままであり、ひどく歯がゆい感じがする。おそらく、ダーレスが魅力的な人物であることはリタースキーにとっては自明すぎ、わざわざ記述する必要もなかったのだろう。高齢や視覚障害参照)といったハンディキャップを乗り越えてダーレスの伝記を書き上げたことを見ても、リタースキーがダーレスに深く傾倒していたことが窺える。

とはいうものの、粗野で魅力の感じられないダーレスの描写は、少なくとも彼の一面を切り取ったものとしては正しいのだろう。より学術的な伝記を誰かが書こうとしてくれるまでは、より単純でありふれた通説を見直すときは、この本に頼るしかないかもしれない。

 オーガスト=ダーレス協会は努力しているようだが、米国においてもダーレス研究はまだ発展段階だ。いつの日かダーレスの本格的な伝記が執筆されることを願う。
 ちなみにアンダーソン氏はトールキンの研究家として有名な人物である。ウィリアム=ホープ=ホジスンの「妖豚」はダーレスによる偽作ではないかという疑いを晴らしてくれたのも彼だ(参照)。