新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

決して眠らぬ魔神の館の扉

 パルヴァーは"The Door to the World"の続編を書いている。その題名を"The Door in the House of the Never Slumbering Demon"といって、リン=カーターの創造したオカルト探偵アントン=ザルナックが登場する。中華街に住んでいる高名な霊能力者をオデアが訪ねようとしているところで前作は終わっていたが、その霊能力者というのはザルナック博士のことだったのだ。物語の舞台となっている年代は定かでないが、何年か前にザルナックとジュール=ド=グランダンが共闘したという記述が作中にある。
 オデアが訪問する少し前、ザルナックの屋敷に泥棒が侵入して荒らすという事件があった。そのせいで「周の宝球」の効果が乱れ、この世界を異界の妖魔から遮断している防壁が弱まってしまう。ザルナックの怒りを怖れた泥棒は数日後に盗品を返還したが、宝球の機能を回復させなければ妖魔の侵入を招きかねない。ザルナックは従僕のアクバル=シンとともに異界へ赴き、片眼を失いながらも危険な任務を成し遂げた。
 そこへオデアがやってきた。何としてでもエレティアのもとへ戻るのだと悲壮な決意の彼を見て、ザルナックは可能な限りの援助をする。エイボンその人が魔法力をこめたという短剣やら旧神の印やらでオデアを武装させたザルナックは儀式を執り行い、彼を異界に送り出した。後は幸運を祈るのみ――そしてザルナック自身の敵を片づける仕事に戻るだけだ。現世と異界の壁を破壊しようとする暗黒教団の者たちが到来しつつあった……。
 ハワードの補綴作品の続きがカーターの模倣作品というわけで、多分にお祭りっぽい感じがする。カーターの作品におけるザルナック博士は割と普通のオカルト探偵なのだが、パルヴァーの作品では超人的な能力が大幅に強化され、手から光刃を出して敵を切り刻むといった見せ場がある。また、ザルナックがかつてツァールの大神官だったというロバート=プライスの追加設定はパルヴァーも採用している。再び異界へ旅立ったオデアの運命が気になって仕方ないのだが、パルヴァー本人に問い合わせてみたところ、さらなる続編はまだ書いていないということだった。

2021年1月28日追記

 この作品で言及されているAn Approach to the Cult of Okkokoku in Eastern Artの出典を知った。


 とても興味深い。改めてパルヴァーの冥福を祈る。