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ウィアードテイルズ表紙のパクリ疑惑

 マーガレット=ブランデージといえば、愛らしくも煽情的なパステル画でウィアードテイルズの表紙を飾った画家だが、彼女がフランク=ユトパテルの絵をパクッたという話がある。ロバート=バーロウに宛てて書いた1933年12月17日付の手紙でラヴクラフトは次のように述べている。

ウィアードテイルズの今月号はおよそ取り柄がなく、読むに値するのはハワードとワンドレイの作品だけです。表紙絵を担当した「芸術家」はブランデージ夫人ですが、模倣という形でユトパテルに表敬していることは間違いありません。今回「潜伏するもの」の挿絵から盗んだばかりでなく、先月の表紙絵は――女性と髑髏の絵ですが――ライトが受理したものの使わなかったユトパテルの絵を丸ごと(そして、ずっとお粗末に)真似たものなのだとダーレスが教えてくれました。

 ラヴクラフトが「今月号」と呼んでいるのはウィアードテイルズの1933年12月号だが、この号にはロバート=E=ハワードの「老ガーフィールドの心臓」とドナルド=ワンドレイの「屍衣の花嫁」が掲載されている。さて、表紙絵はどのようなものだったのだろうか。
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 パクリ元である「潜伏するもの」の挿絵は青心社文庫の『クトゥルー』で見ることができるが、なるほど中国人がそっくりだ。C.A.スミスはブランデージに対して辛辣で、彼女の美的感覚は牝牛並みだと酷評しているが、ラヴクラフトも苦笑気味と見える。
 ちなみにパクられた側のユトパテルは当時28歳。彼とダーレスの親交は終生にわたって続き、ユトパテルはしばしばダーレスのために挿絵を手がけている。ダーレスの晩年の代表作であるReturn to Walden West にユトパテルがつけた絵は非常に味わい深いものだ。ラヴクラフトにフィンレイあれば、ダーレスにユトパテルありといったところだろう。

2015年9月19日追記

 ウィアードテイルズの編集長であるファーンズワース=ライトもパクリの事実は認めていた。ライトがダーレスに送った1933年12月12日付の手紙がウィスコンシン州立歴史協会に保管されており、そこでは次のように述べられている。

「潜伏するもの」のためにユトパテルが描いてくれた挿絵は弊誌の内容を非常によく表象するものだったので、その絵の中国人と似た人物を描いてくれないかと我々はブランデージ夫人に注文したのです。背景には占星図を配して象徴性を増し、また活劇の風味を付与するために女の子も描いてもらいました。ただ我々が予期したよりもユトパテルの絵に似すぎてしまったのですが、すぐれた作品なので採用しましたよ。

 「潜伏するもの」のフォ=ラン博士を流用して表紙に使うことを考えついたのはライト編集長だったというのが真相であり、ブランデージは彼の指示に従っただけだったようだ。ユトパテルに表紙絵を描かせるのではなく、ユトパテルの作品を基にしたブランデージの絵を表紙にするあたり、二人の技量に対するライトの評価が一目瞭然である。