新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

光と闇の果てしないバトル

 C.J.ヘンダースンの新ザルナック・サーガの掉尾を飾るのが"The Door"だ。"To Cast out Fear"ではルグラース警視正とザルナック博士が共闘したが、今度はテディー=ロンドン(参照)が出てくる。
 歳月は流れて現在、オカルト探偵テディー=ロンドンはチベットの山に向かっていた。何か怖ろしいことが起きようとしている、途方もなく強大で邪悪なものが侵入してこようとしているという予感がするのだ。
 ロンドンが辿りついた先には巨大な扉があり、その前に見知らぬ年輩の紳士が佇んでいた。彼はアントン=ザルナック博士と名乗る。扉は激しく揺れ、その向こうにいる何かによって今にも破られそうだった。
「君の番もいずれ来るよ、お若いの」とザルナックはいう。「だが今日ではない」
 ザルナックは呪文を唱えて閻魔を招喚する。現れた閻魔はいった。
「貴様が呼んだのか? 久しぶりだな。予の獲物はどこにいる?」
「扉の向こうだ」
「貴様と予で奴を屠ろうというのか? おもしろい」
 かつて敵同士だったザルナックと閻魔が力を合わせ、さらに強大な敵に立ち向かうという燃える展開だ。その時、傷つき年老いた一人の男が扉の中から出てきた。
「ギーセット教授ですな?」
 ザルナックの問いかけに、老人は頷いた。ギーセット教授といえば、ザルナックの前任としてニューヨーク市を守護していた人物である。シンの説明では失踪したということになっていたが、実は扉の向こう側にいるものと戦っていたのだった。
「教授を頼んだぞ」
 そうロンドンに言い残すと、ザルナックは扉の中に入っていった。ロンドンはギーセット教授の体を支えながら見送る。一人の戦士が力尽き、別の戦士が後を引き受けた。そして次の戦士も出番を待っている。征くぞ――この世のある限り、決して終わらぬ戦いへ!
 ザルナックがロンドンに後事を託し、異次元での戦いに旅立っていくところで物語は終わる。最後のバトンタッチの場面が格好いい。なお、この後もヘンダースンはザルナック博士の話を書き続け、Hardboiled Cthulhu などに作品が収録されている。様々な作家が書いたザルナック物語を一冊の単行本にまとめたとき「今のところはこれで全部だが、将来さらに書かれるかもしれませんぞ」とロバート=プライスが語っていたが、その通りになったわけだ。けだしリン=カーターは愛されているというべきだろう。

Hardboiled Cthulhu: Two-Fisted Tales of Tentacled Terror

Hardboiled Cthulhu: Two-Fisted Tales of Tentacled Terror