新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

反復する災厄

 S.T.ヨシといえば世界一のラヴクラフト研究家であり、凡俗なクトゥルー神話作品に対する手厳しい態度で知られる御仁だが、実は彼自身が"The Recurring Doom"という神話作品を1975年に書いている。Acolytes of Cthulhu に収録されているのを読んだことがあるので、粗筋を紹介させていただこう。
 物語の舞台は1940年夏の英国。ジェファーソン=コラー教授は超一流の考古学者だが、あまりにも突飛な学説を唱えるために学界では孤立している。ある日、コラーの数少ない友人であるコリンズが彼に招かれる。セヴァーンフォードにあるコラーの屋敷を訪れたコリンズに彼が見せたのは、アラビアの砂漠で発掘したという水晶の直方体だった。それは輝くトラペゾヘドロンではないかとコリンズはいうが、コラーは彼の意見を否定する。二人は書斎に行き、水晶の正体を知るための手がかりを求めて『ネクロノミコン』や『妖蛆の秘密』をせっせと読むのだった。
 ミスカトニック大学人類学部の学部長であるジョゼフ=メレディス教授が大西洋の向こうからコラーを訪問し、ミスカトニック大学の探検隊がエジプトで発見した古文書を解読してほしいと依頼した。クルクル断章と名付けられた古文書を読む作業にコラーは取りかかる。一方、水晶は中心部が緑色に輝きだしていた。そしてコラーの屋敷に泥棒が押し入り、水晶を奪おうとする。失敗して逃げる賊をコリンズがコラーの指図で追跡すると、そいつはセンティネルの丘に集う魔術師たちの一味だった。もはやクルクル断章の解読は時間の問題であり、自分に手伝えることはないと考えたコリンズはオックスフォード大学に行って時間を潰すが、彼が戻るとコラーは頭を殴られて失神していた。そして水晶は影も形も見当たらなかった。
 息を吹き返したコラーにコリンズがメレディスの居場所を訊ねると、彼は急遽ミスカトニック大学に引き返したとのことだった。アーカムで怪事件が発生し、大勢の市民が犠牲になったというのだ。時を同じくしてハイチにも海魔が出現していた。クルクル断章を読んで真相を知ったコラーはライフルを持ち、コリンズを連れてセンティネルの丘に急行する。丘では魔術師たちが例の水晶を祭壇の上に安置し、儀式を始めようとしていた。コラーとコリンズはライフルを振り回して水晶を奪い返し、追いかけてくる魔術師たちを振り切って逃亡に成功する。
 廃坑に水晶を捨てた後でコラーはコリンズに説明する。あれはユゴスで作られた「ザマラシュトラの水晶」で、ナイアーラトテップによってもたらされた火が内部で燃えている。ユゴスの公転周期である248年ごとに星辰の位置は正しく定まるが、そのとき水晶を使えばクトゥルーを封印から解放できるのだ。今から248年前の1692年にも信者たちがクトゥルーを復活させようとしたことがあり、その結果がセイレムの魔女裁判だった……。
 いろいろと突っ込みどころの多い作品だが、ザマラシュトラの水晶を狙う魔術師たちがしょぼいのが個人的には一番悲しい。"The Recurring Doom"を読んだロバート=プライスは次のようにヨシをからかっている。

ヨシよ、君自身が認めたように、こいつはまったくもってダーレスの真似だね。かつては君も私のように模倣という藪の中を逍遙していたのだと知って嬉しいよ。さあ認めたまえ――君がまだ若くて無知だった頃には、イタカやクトゥグアや旧神はすごく楽しいものだったんじゃないのかね?

http://crypt-of-cthulhu.com/mail001.htm

 1975年といえば、ヨシはまだ17歳である。こんな代物を書いてしまったことはさぞかし彼の黒歴史に違いないと思いきや、The Rise and Fall of the Cthulhu Mythos では見事に開き直っていた。