新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

博士と教授

 誤解されがちだが、「ダニッチの怪」に登場するヘンリー=アーミティッジは博士ではあっても教授ではない。彼はミスカトニック大学の教員ではなく職員である――などと偉そうなことをいっているが、実は私も『クトゥルー神話全書』の解説でうっかり「アーミティッジ教授」と書いている。
 ケイオシアムから刊行されたMiskatonic University はさすがに抜かりがなく、アーミティッジ博士を教授とは見なしていない。また、次のような記述がある。

アーミティッジが持っている鞄には旧神の印が四つ入っているが、これはラバン=シュリュズベリイが1915年に失踪した際に彼に託していったものである。ダニッチの怪事件以降、アーミティッジは旧神の印の真価を知るようになり、稀覯書保管室の扉に印をひとつ設置した。翌年、アーミティッジはアーサー=ホジキンスに旧神の印をひとつ渡し、彼がゾス=オムモグに立ち向かうのを助けた。

 アーミティッジとシュリュズベリイが盟友であるというのも、ホジキンスがアーミティッジから旧神の印をもらったというのも、リン=カーターの"The Horror in the Gallery"に書いてあることだ。ただし、印のそもそもの出所がシュリュズベリイだというくだりはおそらくTRPG独自の設定だろう。
 "The Horror in the Gallery"には『暗黒の儀式』のセネカ=ラファム博士も登場し、ゾス=オムモグ降臨の危機が迫る中でアーミティッジ博士と作戦会議を開いている。カーターは彼を「貴族のようでもあり苦行僧のようでもある物腰の老紳士」と描写しており、アーミティッジ博士と同年輩としているが、ケイオシアムの設定ではなぜか三十代ということになっている。なおラファム博士は教授ではなく研究員だが、いわれてみれば『暗黒の儀式』でも「教授」とは一度も呼ばれていない。
 シュリュズベリイはミスカトニック大学の教授、アーミティッジは図書館員、そしてラファムは研究員と見事なまでに肩書がばらばらだ。これはカーターに始まったことではなく、「ダニッチの怪」でヨグ=ソトースの落とし子に立ち向かったアーミティッジ・ライス・モーガンのうち、正教授の地位を得ているのはライスだけだった。フリッツ=ライバーの"The Terror From the Depths"はさらに徹底しており、旧支配者の眷属に対する抵抗運動「ミスカトニック計画」への言及があるのだが、正規の高等教育を受けていないはずのラヴクラフトが同計画の重鎮ということになっている。
 それぞれ身分や立場は違っていたけれども、彼らの絆は堅固であり、人類を守るという願いはひとつだったのである――これは熱い!

Miskatonic University: A Sourcebook For Call Of Cthulhu (Call of Cthulhu Roleplaying Game)

Miskatonic University: A Sourcebook For Call Of Cthulhu (Call of Cthulhu Roleplaying Game)