天空の騎士
"Riders in the Sky"という短編がある。ダーレスとマーク=スコラーの合作で、ウィアードテイルズの1928年5月号に掲載された。
メソポタミアの遺跡を調査していたマーロウ博士と、彼の助手のフェントン博士が行方不明になり、後にフェントン博士の手記が残されていた。マーロウ博士とフェントン博士が調べていたのは月の神シンと女神アイの神殿だが、なぜか現地人は彼らに協力しようとしなかった。どうやら神殿は忌避されているようだ。
騎馬隊が駆けてくるような音が夜中に聞こえるとマーロウ博士はフェントン博士に語る。二人が夜中に神殿を見張っていると、触手と翼を備えた怪物が大勢やってきて月神を礼拝しはじめた。マーロウ博士がいることに気づいた怪物どもは彼を取り囲み、自分たちの体で高々とピラミッドを組む。ピラミッドが崩れたとき、マーロウ博士の姿はどこにも見当たらなかった。
「奴らは私の方へ向かってくる。今度は私の番だが、もう逃げられない……」
そこでフェントン博士の手記は途切れていた。後に捜索隊が現場検証を行ったところ、神殿の屋根からマーロウ博士の懐中時計が見つかる。時計は高いところから落ちたかのように割れていたということだ。
これだけの話なのだが、ロバート=プライスがおもしろい指摘をしている。ダーレスの「戸口の彼方へ」に「アイ! アイ! アイ!」という詠唱が出てくるが、これは単なる間投詞ではなく月の女神アイの名前を呼んだものであり、したがって"Riders in the Sky"は後からクトゥルー神話大系と関連づけられたというのだ。この説が正しいかどうかはさておき、空の彼方に連れ去ってしまうというのは確かにイタカを連想させる。エドワード=P=バーグランドによると、プライス博士はダーレスとスコラーの合作集をケイオシアムから出版し、そこに"Riders in the Sky"も収録するつもりだったそうだが、諸般の事情から実現に至っていない。*1