ラヴクラフト・サークルの推薦状
ダーレスが書いた1931年8月31日付のラヴクラフト宛書簡より。
先ほど差し上げた今日付の手紙に書き忘れていたことがあります。私の作品を3編ライトに推薦していただけないでしょうか――「風に乗りて歩むもの」と"They Shall Rise in Great Numbers"と"The House in the Magnolias"です。スミスさんも同じことをしてくれています。スミスさんが"The House in the Magnolias"を読み終えたらラヴクラフトさんに回しましょう。もしも御賛同いただけるのであれば、推薦の手紙をライトが9月8日までに受け取れるように送っていただきたいのです。その頃までには私の原稿も彼のところに着いているはずです。これを提案したのはスミスさんで、ある説を証明するためのものです――ライト編集長は他人の意見に影響されやすいという説であり、それには私もまったく賛成です。
ウィアードテイルズの編集長ファーンズワース=ライトは確たる理由もなく原稿を没にする人だったが、だったら作家が互いの作品を推薦し合うことで対抗すればいいではないかとC.A.スミスが提案したというのだ。なかなか考えたものだが、若いダーレスを応援してやろうという先輩としての心遣いも無論あるのだろう。
ラヴクラフトは協力することにし、ライトに推薦の手紙を書いた。あまり露骨になるといけないので、表向きは「霧の中の不思議な館」の挿絵を描いてくれたジョゼフ=ドゥーリンを褒める手紙ということにし、ついでを装ってダーレスの作品を推すという芸の細かいことをしている。
"The House in the Magnolias"は弊ブログでも粗筋を紹介したことがある。*1"They Shall Rise in Great Numbers"というのは、おそらくマーク=スコラーとの合作"They Shall Rise"のことだろう。これはウィアードテイルズの1936年4月号に掲載されたが、「風に乗りて歩むもの」と"The House in the Magnolias"の初出はウィアードテイルズではなくストレンジテイルズなので、どうやらライトはあまり心を動かされなかったらしい。
ダーレスは没原稿を書き直さずに寝かせておき、まったく同じものを何食わぬ顔でしばらく後に提出してライトに受理させたこともあるそうだ。理不尽に原稿を突っ返す編集長と、最小限の努力で稿料を稼ごうとする作家。狐と狸の化かし合いである。