新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

パートリッジヴィル家の犬

 昨日に引き続き、もうひとつティンダロスの猟犬の話をさせていただこう。ピーター=キャノンに"The Hound of the Partridgevilles"という短編がある。「ティンダロスの猟犬」の後日談だが、題名はコナン=ドイルの「バスカヴィル家の犬」のパロディだ。
 パートリッジヴィルというのは「ティンダロスの犬」の舞台となった地名だ。ニューイングランドの地名でパートリッジヴィルはないだろうと初めは思ったが、これはプロヴィデンスをもじったものなのだそうだとキャノンはLong Memories で説明している。どっちにしろ、少々ふざけた印象を与える名前であり、そのことが"The Hound of the Partridgevilles"の内容にも影響を及ぼしたようだ。
 パートリッジヴィルの町では現在もパートリッジヴィル家が絶大な力を持っており、当主は「パートリッジヴィル卿」と呼び慣わされているほどだった。パートリッジヴィル卿はハルピン=チャルマーズの熱烈な信奉者で、町ではチャルマーズ記念祭が定期的に開催されている。チャルマーズはラヴクラフトがモデルになっているのだが、町ぐるみで彼を顕彰しているという設定はラヴクラフトよりもむしろダーレスを連想させる。
 チャルマーズ殺害事件の真相は未だに謎のままとなっていたが、パートリッジヴィル卿はその解明を思い立った。チャルマーズの命日である7月3日、かつて彼が住んでいたアパートに身内のオカルト研究家を呼び、そこで何があったかを明らかにしようというのだ。夜中になり、怖ろしい爆発音と共にティンダロスの猟犬が現れた。煙が収まると、床にひっくり返ったパートリッジヴィル卿の顔を猟犬が舐めている。猟犬はいった。
「立派におなりだねえ、倅や」
 何と彼は先代のパートリッジヴィル卿がティンダロスの猟犬に産ませた子だったのだ。「ハルピン=チャルマーズを殺したのはあなたなのですか?」とオカルト研究家が訊ねると、猟犬は「そういう無礼な質問に答えなければならない謂れはありません!」と気色ばんだ。チャルマーズ殺しの下手人は結局わからずじまいだが、そんなことがどうでもよくなってしまうほど衝撃的な新事実だ。
 というわけで、キャノンによるとティンダロスの猟犬は人間の子供を産めるらしい。ただし馬とロバの間に生まれたラバが子供を作れないように、人間と猟犬のハーフも子供を作ることができない。そのためパートリッジヴィル卿も独り身だったが、もう好きにしてくれというしかないだろう。