新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ジャガーノート

 The Tindalos Cycle にC.J.ヘンダースンの"Juggernaut"が収録されている。2000年に発表された短編で、主役を務めるのはオカルト探偵のテディー=ロンドンだ。
 友人であるゴワード教授がティンダロスの猟犬に狙われていると知って、ロンドンは仲間たちと共に迎え撃つことにした。その面子はロンドンの相棒ポール、武器取扱の専門家パシャ、電子戦の達人キャット。来いや犬コロども!
 猟犬を防ぐには角度のない場所というのがフランク=ベルナップ=ロング以来の伝統だ。パシャの提案で波止場の倉庫が選ばれた。建物解体用の鉄球を作るための鋳型がそこに積まれているのだ。ゴワード教授は酸素ボンベを持って鋳型の中に入り、ロンドンたちは近くで猟犬を待ち受けた。
 ついに猟犬が姿を現した。用意しておいた罠に高圧電流が流れ、溶けた金属が猟犬の頭上から降り注ぐ。パシャが指示を出すと、彼の部下たちがありったけの銃弾を猟犬に浴びせた。まずは普通に火力で猟犬に立ち向かおうというわけだが、あまりに無謀すぎて逆に意表を突かれる。
 撃ちまくっていると、猟犬は動かなくなった。ティンダロスの猟犬1頭を仕留めるのに費やしたお金は約150万ドル。思いのほか安上がりだ。戦いは終わったと皆が思ったとき、異次元からティンダロスの猟犬が大挙して押し寄せてきた。絶望的すぎて笑い出したくなるような光景だ。
 ロンドンは猟犬の前に立ちはだかった。先頭にいる猟犬の首領が彼に話しかける。ヘンダースンの作品において、神話存在は英語を喋るらしい。それにしてもティンダロスの猟犬の首領がベリアルという名前で、側近がアムドゥシアスなのは何とかならないのだろうか。
 話し合いで解決しようとしたロンドンだったが、交渉は決裂した。アムドゥシアスがロンドンに襲いかかるが、ロンドンは彼をサイキックウェーブで真っ二つにする。さすがに普通の火力だけでティンダロスの猟犬に対抗しようとしていたわけではなかったようだが、数え切れないほどいる猟犬を食い止めることはどのみち無理だ。ロンドンは自動車に飛び乗って逃げ出した。ベリアルに率いられた猟犬どもはニューヨークの市街を灰燼に変えながら追いかける。ロンドン一人にかかずらう必要があるのかと思ったのだが、猟犬には猟犬の事情があるようだ。
 ロンドンは亜空間を利用し、スイスのジュネーブにある欧州原子核研究機構の施設に瞬間移動した。猟犬どもを粒子加速器の中に誘いこんで陽子ビームを喰らわそうというのだ。ロンドンの計略は成功したが、連鎖反応が発生してジュネーブは吹き飛んだ。そして何千頭もいた猟犬は20頭程度まで減ったものの、まだ追いかけてくる。
 ロンドンは瞬間移動するだけでなく、時間をもさかのぼることにした。目指すは1986年4月26日、ソビエト連邦ウクライナ共和国チェルノブイリメルトダウンを起こした炉心に閉じこめられて、猟犬どもは今度こそ身動きがとれなくなる。ゴワード教授を助けることができたと仲間たちは勝利を喜ぶが、ティンダロスの猟犬は滅んだわけではない。そしてロンドンは犠牲の大きさに思いを馳せ、俺のやったことは果たして正しかったのだろうかと自問するのだった。
 設定や用語にブライアン=ラムレイからの影響が見られる作品。ラムレイの神話長編に登場するティンダロスの猟犬は宇宙のゴキブリともいうべき連中で、ブラックホールにおびき寄せて動けなくするという退治方法もゴキブリホイホイめいているが、ヘンダースンの作品ではもっと貫禄がある。ただし、しぶとさという点ではラムレイ版よりも劣るようだ。
 なお、ヘンダースンの作品で邦訳されているのは『ラヴクラフトの世界』所収の「コロンビア・テラスの恐怖」のみだが、これはロンドンの相棒ポールが主役のスピンオフである。

The Tindalos Cycle

The Tindalos Cycle

ラヴクラフトの世界

ラヴクラフトの世界