僕の彼女には鱗がある
Dead But Dreaming 2 にダレル=シュワイツァーの"Innsmouth Idyll"が収録されている。
主人公はティミーという名の少年。インスマスに引っ越してきたばかりで、インターネットはおろかテレビすらない環境にうんざりしている。だがへジーという少女と知り合うことができた。彼よりひとつ年上で、結構かわいい子だ。その子に誘われて、ティミーは浜辺でデートすることになった。
二人で並んで砂浜に寝転んでいると、不意にヘジーが起き上がり、泳ぎに行こうという。ティミーも泳ぎは得意だったので、水が冷たいのを我慢しながらヘジーの後に続いた。あれ、ヘジーって背中に鱗があるんだな……。
出し抜けにヘジーが後ろから抱きついてきた。うひゃあ、胸が背中に当たってるよ! と思う間もなく、二人はどんどん沈んでいく。海の底にいたのは、鯨よりも巨大な何かだった。水中にいるはずなのに、なぜかヘジーの声が聞こえる。
「大丈夫、あれは私たちの父よ」
深きものは眼を開けて二人に語りかける。ティミーとヘジーが浮上すると、すでに日はとっぷりと暮れていた。信じがたいことだが、二人は何時間も海の中に留まっていたのだ。
こうしてティミーは滄溟の謎を、旧支配者の神秘を知った。大いなる知識を得た彼は、それでも自分の人生でもっとも幸福だったのは何も知らないまま砂浜に寝転んでいたあの一瞬だったのかもしれないと思うのだった。今や彼には潮の流れと波の音色が絶えることなく聞こえるのだから……。
というわけで「インスマスを覆う影」の系譜に連なる作品なのだが、ボーイ・ミーツ・ガールものに仕立てた点に特色がある。また、ダーレスの「ルルイエの印」を彷彿とさせるところがあるかもしれない。作者のシュワイツァーは米国の作家・編集者。Cthulhu's Reign の編者も彼である。
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