新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

スモール・ワールド

 ロバート=ブロックに"It's a Small World"という短編がある。
 クライドはおもちゃ屋で働く青年。ある冬の日、身長が7フィートもある不気味な男がおもちゃ屋にやってくる。サイモン=マロットと名乗る大男は三輪車を注文するが、商品を梱包するため奥の部屋に行ったクライドが売り場に戻ると、同僚にして恋人のグウェンがいなくなっていた。
 グウェンの残した走り書きを手がかりに、クライドはサイモンの屋敷に乗りこむ。そこで彼が見たものは、身長2インチに縮められたグウェンの姿だった。「うちの子への贈物にしたいのだよ」とサイモンはいい、クライドも小人にされてしまう。
 気がつくと、クライドとグウェンはクリスマスツリーにぶら下げられていた。そこはおもちゃでいっぱいの部屋で、ロジャーという名の少年が現れる。「いい子にしていた褒美だ」とサイモンにいわれたロジャーは、さっそくクライドたちをおもちゃにして遊びはじめた。
 何とかして脱出しようとするクライドとグウェン。逃げようとする二人にロジャーは腹を立てて罰しようとするが、クライドたちは彼を感電させることに成功する。びっくりしたロジャーは座りこみ、しくしくと泣き出した。グウェンはロジャーに話しかける。
「ロジャー、あなたのしていることは間違ってるわ」
「ごめんなさい」とロジャーは謝り、自分の身の上を語る。彼は孤児だった。サイモンは魔術師で、ロジャーの両親を殺して彼を自分の弟子にしたのだ。なお、サイモンの蔵書には『妖蛆の秘密』や『ネクロノミコン』もあるということになっている。
 縮められてしまった体を元に戻す薬がサイモンの実験室にある。ロジャーはクライドとグウェンを連れて実験室に忍びこんだが、サイモンに見つかってしまった。クライドとグウェンは髑髏の中に身を隠す。
「私はおまえを大魔術師に育て上げてやるつもりだったのに、くだらない考えに染まってしまったのか」とサイモンはロジャーにいった。「おまえには失望したよ。だが、あの二人を私に引き渡せば、このことは水に流してやろう」
「嫌だ! あの人たちは殺させないぞ!」と叫ぶロジャー。なかなか熱い少年だ。腹を立てたサイモンはロジャーを縛り上げた。ロジャーまで小人に変えてしまうつもりだ。
 実験台の上に置いてあった注射器をサイモンは探すが、それはもうクライドが手に入れていた。クライドは隙を衝いてサイモンに縮小薬を注射する。小さくなったサイモンとクライドは大立ち回りを繰り広げるが、膂力に勝るサイモンが有利だった。とうとうクライドは追い詰められて絶体絶命の窮地に立たされるが、そのときサイモンの飼猫が現れた。猫はサイモンを獲物と認識し、喰い殺してしまう。ちなみに、この猫の母親もサイモンの生体実験の犠牲になっており、彼は意図せずして仇を討ったことになる。
 クライドとグウェンは解毒剤を手に入れて元の姿に戻り、ロジャーを救い出した。「僕とグウェンは結婚することにしたよ。ロジャー、君も僕たちと一緒に暮らそう」とクライドはロジャーにいった。そして3人は、炎上する魔術師の館を後にしたのだった。
 ブロックのクトゥルー神話小説にしては珍しいハッピーエンドだ。クリスマスの季節に読むのにふさわしい作品といえるだろう。初出はアメージングストーリーズの1944年3月号である。