新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

恐怖はダニッチより生ずる

 グリン=バーラスのクトゥルー神話小説"The Horror Out of Dunwich"がNightscapes の17号に掲載されている。題名から察しがつくように、ラヴクラフトの「ダニッチの怪」を再構成した作品だ。私たちが住んでいるのとは異なる世界、ウィルバー=ウェイトリーがミスカトニック大学図書館から『ネクロノミコン』を盗み出すことに成功した世界が舞台になっている。
FICTION BY GLYNN BARRASS
 ウィルバーは『ネクロノミコン』を使って旧支配者を復活させ、人類と邪神の間で死闘が始まる。米国の大半は旧支配者に制圧され、ミスカトニック大学も壊滅するが、ウィルバーにも深刻な悩みがあった。母親から受け継いだ人間の形質が新たに発現しつつあったのだ。その問題を解決するべく、彼は南極に向かう。ウィルバーが旅立ったことを知った人類側はただちに討伐隊を編成し、追跡を開始した。
 討伐隊の男女は南極の氷原で幾多の苦難に阻まれ、次々と斃れていく。ついにはミスカトニック大学の元教授ウィリアム=ダイヤーが生き残るのみとなったが、それでも彼は追跡を諦めようとはしなかった。ウィルバーは目的地に到達したが、その背後からダイヤーが迫る。ウィルバーは呪文を唱えはじめた。氷の下からショゴスを招喚して自分の中に取りこみ、完全体へと進化しようというのだ。
 ウィルバーから100ヤードほど離れたところでダイヤーは銃を構え、凍傷に蝕まれた指で引き金を引いた。銃にこめられているのはアーミティッジ博士から託された最後の武器、旧神の印を銃弾化したものだ。弾丸は狙い過たずウィルバーに命中し、彼の頭を砕いた。ウィルバーが生命を失ったことを察知したショゴスは彼を見捨て、氷の下に戻っていく。勝利を収めたダイヤーだったが、彼が南極から生還することはないだろう。そうと知りながらも、ダイヤーは氷原に横たわったまま思うのだった――いまの俺には、このささやかな憩いで充分だと。
 念のために付け加えておくと、ダイヤー教授は「狂気の山脈にて」の語り手。原作とはかなり違った姿をここでは見せている。短い作品なのだが、ウィルバーを追い詰めていくダイヤーの執念がすさまじく、バーラスらしさを感じさせる。バーラスは『ナイトランド』に作品が掲載されているので、彼の名を知っている方もおられるだろう。今年の3月に発売予定の第5号にはバーラスの「カーリー」が載ると聞いた。