新・凡々ブログ

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ボーナスアーミーとラヴクラフト

大恐慌のボーナス・アーミーと日比谷公園派遣村 : 少年犯罪データベースドア
 このボーナスアーミーにラヴクラフトは1932年8月16日付のロバート=E=ハワード宛書簡で言及している。

 「ボーナスアーミー」とその鎮圧のことですが──東海岸の住人は、とりわけ退役軍人がワシントンに集まってくるのを直に目撃した者は、他に道はなかったと考えているように思われます。……政権に圧力をかけるために首都を行進するという考えは良くても正気の沙汰ではありませんし、最悪の場合は危険な政府転覆の動きになりかねません。今ある以外の結末は予期できなかったのです。それでも「行進」それ自体には同情せざるを得ません。行進の参加者は本当に窮乏した人たちであり、大概は無知で容易に影響されてしまうのです。明らかに不毛であり、危険なものになりかねない示威行動を煽動した連中を非難すべきです。ですが重要なのは、事件のどの段階においても彼らに悪意を抱いた者は誰一人としていなかったという点です。彼らが脅威となる可能性が生じたときにのみ実力が行使されました。
 恩給の問題自体は遙かに深く、大いに議論することが必要です。法的な意味では債務は何ら存在しませんし、フランスで服務していなかった「老兵」の場合は、恩給の支払が約束されたものといえるのか疑問です。一方、実際に服務した方々の御苦労は大変なものであり、その人たちには特例として何らかの救済や補償があって然るべきでしょう。問題は、この特別な救済措置を現時点で直ちに行うのが妥当かどうかということです。困窮している本物の退役軍人の暮らしを楽にする上で何らかの優先順位を設けるべきかどうかが間違いなく最初の問題となるでしょう──しかしながら、ある程度の金額を退役軍人のみに恣意的に供与する、そして困窮している退役軍人だけでなく裕福な退役軍人にも恩給を支払うというのでは、多くの理由で批判にさらされることになります。世界大戦に従軍したことがあり、経済的に豊かでない知人の多くがその案には無条件で反対しています──米在郷軍人会も組織として反対しているはずです。この問題に関して本当に知的な意見を素人が唱えることは当惑させられるほど困難です。私も一方に味方したかと思えば他方に味方する始末です。そのような法律が有権者の圧力で制定されれば、連邦政府社会保障制度充実に対する保守派の抵抗を打ち砕くという将来必要な作業の有益な助けになってくれるかもしれません。他方では、様々な集団や派閥に対する特典を要求する不合理な騒動を誘発することになってしまうかもしれません。「農民恩給」や「ボイラー製造人恩給」を要求する示威行動が生じることになるかもしれないのです。また、それは議会に対するデモ集会や直接行動の先例となるかもしれません。本当に公正な評価は後世の歴史家に委ねるしかないでしょう。

 歯切れが悪いが、要するに「兵隊さんは気の毒だと思うけど、デモの鎮圧は仕方ないよね」というような意見である。だが、そのラヴクラフトも数年後には「現在の米国で暴力革命が勃発したとしても、その責任は人民ではなく資本家の側にある」と熱弁をふるうようになるのだった。