シュブ=ニグラスの旦那さん
又、ラヴクラフトはシュブ=ニグラスをヨグ=ソトースの妻であるとしています。又、この二神の間にナグ(Nug)とイェブ(Yeb)の恐ろしき双子が生まれたとしており、カーターも双子の両親についての設定は踏襲しています。一方、ダーレスはシュブ=ニグラスをハスター(Haster)の妻であるとしていて、ベネット・ライリーの「Star-crossed」は、この説を踏襲しています。
Shub-Niggurath
シュブ=ニグラスについて非常に詳しいことが書いてあるページなのだが、ハスターとシュブ=ニグラスが夫婦であるという記述はダーレスの作品にはない。私の知る限り、この説の初出はリン=カーターの「クトゥルー神話の神神」であり、後年の"The Horror in the Gallery"などでも同じ説が繰り返し披露されている。このような設定をカーターが考えついた理由は定かでないが、ラヴクラフト&ビショップの「墳丘の怪」にある「名付けられざるものの妻シュブ=ニグラス」という一節から着想を得たのではないだろうか。名付けられざるものといえば、現在では普通ハスターのことをさす。
もちろんラヴクラフトの書簡ではシュブ=ニグラスはヨグ=ソトースの妻とされているわけで、カーターの設定はそれと相容れない。この矛盾の解消を試みたクトゥルー神話作品としては矢野健太郎先生の『邪神伝説』などがあるが、とても強引な方法で二つの説を統合してしまった作家がいる。リチャード=L=ティアニーである。彼のThe Drums of Chaos では、ヨグ=ソトースとハスターは同じ神ということになっているのである。ジョン=タインズの描くハスターの姿はヨグ=ソトースにかなり近いが(参照)、ティアニーの見解はさらに一歩それを押し進めたものといってよいだろう。
ついでにいえば、ナグとイェブの両親に関するカーターの設定もラヴクラフトのものとは異なる。"Carcosa Story About Hali"という断章では、ナグとイェブの双子はハスターとシュブ=ニグラスから生まれたことになっている。もっとも、この断章ではハスターをアザトースの子としており、ヨグ=ソトースの子とする他のカーター作品とは整合性がとれていない。ナグとイェブに関しても、複数の相反する説をカーターが唱えていた可能性はある。
カーターがアブドゥル=アルハザードに仮託して書いた"The City of Pillars"では、ナグは食屍鬼の長であり、ニョグタに仕えるということになっている。これはカーター独特の設定で、今日では食屍鬼の統領といえばモルディギアンの名を挙げる方が一般的だろう。また、カーターの断章をロバート=プライスが補って完成させた"The Strange Doom of Enos Harker"ではロイガーとツァールをナグとイェブの別名としているが、その部分を書いたのはカーターではなくプライス博士である。
- 作者: Richard L. Tierney
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