新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ミスカトニック計画

 旧支配者の脅威に対抗するための組織としてはウィルマース財団が有名だが、その元祖は何だろうか。
 フリッツ=ライバーに"The Terror From the Depths"という短編がある。那智史郎氏が『クトゥルー神話の本』で述べているところによると、ライバーはこの作品を1937年に書きかけたきり放っておいたそうだが、40年近く経ってから完成されたものがクトゥルー神話アンソロジーThe Disciples of Cthulhu に収録された。「アーカムそして星の世界へ」以外にライバーが書いた唯一の神話作品だろう。なお当初はロバート=ブレイクの架空の著作に因んで題名を「地を穿つ魔」とする予定だったが、ブライアン=ラムレイが同名の長編を書いていたので"The Terror From the Depths"に変更したのだとロバート=プライスは『エイボンの書』で解説している。
 "The Terror From the Depths"はカリフォルニア在住のジョージ=ロイター=フィッシャーという青年が主役の話だが、ラヴクラフトの「闇に囁くもの」で語り手を務めたアルバート=N=ウィルマースも登場する。彼は講師から助教授に昇進し、「ミスカトニック計画」の中心人物になっているという設定だ。ミスカトニック計画は闇の勢力に立ち向かう人々の叡智を結集したものであり、ラヴクラフトも参加している。
 1937年3月15日、ウィルマースはフィッシャーのもとを訪れていた。アーカムにいるダンフォースからの電報が届き、ラヴクラフトの訃報を伝える。愕然とするウィルマース。ラヴクラフトのために乾杯しようとフィッシャーが提案すると、やっとの思いでウィルマースはいう。

お願いだ、彼の名前をいわないでくれ。彼だけじゃない、ミスカトニック計画に参加して斃れていった勇敢な同志たち全員のために乾杯だ。

 泣かせる場面だ。そもそもはライバーから始まったことなのだとプライス博士はTales of the Lovecraft Mythos で語っている。

The Disciples of Cthulhu (Call of Cthulhu Novel)

The Disciples of Cthulhu (Call of Cthulhu Novel)