新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

タイプライタと万年筆

 The Inhabitant of the Lake & Other Unwelcome Tenants という本を買った。ラムジー=キャンベルの初期のクトゥルー神話作品を集めた本だが、ダーレスのキャンベル宛書簡も何通か読むことができる。収録されているのは手紙を現物通りに再現したものだが、ダーレスはタイプライタを使っているので、読むのに苦労はない。三尖槍(トライデント)を突き立てたようなAの字が印象的な署名をダーレスはすべての手紙に添えており、その部分だけが直筆だ。
 親しい友人に宛てて手紙を書くときでもタイプライタを使うのは、ダーレスの若い頃からの流儀だった。彼はタイピングが非常に得意で、1分間に500字を叩き出すことができたという。一方ラヴクラフトは常に万年筆を使っており、この点でも二人は対照的だ。私などにはラヴクラフトの直筆はまったく読み解くことができない。もっとも、ラヴクラフトの筆跡は確かに癖が強かったが、コツさえつかんでしまえば楽に読めたとフリッツ=ライバーは語っている。
 あるときダーレスのタイプライタが故障したことがあった。シフトキーが故障したため大文字が打てなくなってしまったのだが、仕方なくダーレスは小文字だけで手紙を書いてラヴクラフトに送ったという。するとラヴクラフトはダーレスをからかって自分も小文字だけで手紙を書き、「私のように万年筆を使っていれば、どんな字でも思うがままに書けるのです」と述べたのだった。1929年9月13日付の手紙である。

The Inhabitant of the Lake: and Other Unwelcome Tenants

The Inhabitant of the Lake: and Other Unwelcome Tenants