新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

破壊の王

 C.A.スミスがラヴクラフトに宛てて1931年8月の上旬に書いた手紙で、"The Master of Destruction"という小説の構想が披露されている。かつて太陽系にはアンタノクという惑星が存在したが、戦乱によって破壊されたという設定の作品だ。現在の小惑星帯はその名残であるということになっている。
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 小惑星エロスに降り立った探検隊の一員が遺跡と美女のミイラを発見する。ミイラが身につけていた護符には、彼自身の筆跡で書かれた文書が入っていたのです――とスミスはラヴクラフトに語っている。まるで「超時間の影」の結末のようだが、ラヴクラフトは1930年11月11日付のスミス宛書簡で同様の案の話をしているから、これを先に考えついたのはラヴクラフトなのだろう。
「この案は備忘録に書き留めたきり、何年も寝かせたままになっています。スミスさんが使ってくださるのでしたら嬉しいです」とラヴクラフトは述べているが、結局"The Master of Destruction"は未完に終わった。ラヴクラフトとスミスは互いに意見を交換し、それが最終的に「超時間の影」として結実したのだろう。
 なお、スミスは別のところでもアンタノクに言及している。ロバート=バーロウが連作短編"Annals of the Jinns"の舞台としてヤクシュ(海王星)を使おうとしたとき、1934年9月10日付の手紙で「ヤクシュはあまりにも太陽から遠くて環境が厳しすぎる」と指摘し、代わりにアンタノクを提案したのだ。
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 粉々に砕け散った文明のかけらという発想がスミスを魅了していたのかもしれない。