新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

古代ヒューペルボリアの猫神信仰

 C.A.スミスが1935年11月頃に書いたロバート=バーロウ宛の手紙より。

人類誕生以前にいたヒューペルボリアの蛇喰族をかたどったとおぼしき彫刻をラヴクラフトが君に転送してくれるはずです。密林に呑みこまれた廃都コモリオムの柱石の直中で、この彫刻は粉々になって発見されました。発見者は器用な人物だったので、彫刻をつなぎ合わせて復元したのです……ところでコモリオムという地では考古学上の発見がふんだんにあるんですよ。僕もいくつか神像を発掘したのですが、その中には紛う方なき太古の獣骨もしくは象牙を刻んだファウズの像もありました。ファウズは女の胸をした猫の女神で、バステト神がケムに現れる遙か前にヒューペルボリア人が崇拝していたのです。それから異様なカメオ細工も見つかりました。その縁は奇妙にも摩耗して丸くなり、獣でもなく人でもない侵入者からコモリオムの東門を守護する黒犬の頭部が彫ってあります……。また審問官モルギの胸像もありました。軽率にもエイボンを追いかけ、土星に通じる金属板を通り抜けてしまった人物です。さらにジャイアントモアの頭部、明らかに無名の神性を描写したカメオ細工がいくつか、そして鳥類と昆虫と爬虫類が複合した生物の頭部がありました。ムーとポセイドニスの調査(未来科学的な潜水鐘を利用して成し遂げたのです)に関する報告は後日に譲りますが、珍奇な偶像をいくつか回収できましたよ。こういう成功で自信がついたからには、恐るべき深淵の都ルルイエの周辺を探検しに行くことになるかもしれません!

 コモリオムの遺跡で発見された蛇喰族の彫刻というのは、もちろん実際にはスミス自身が制作したものだろう。ファウズという猫の女神がヒューペルボリアで信仰されていたという設定が興味深い。エイボンの弟子であるサイロンが猫神イジーラを崇めていたとリン=カーターの作品にあるが、おそらくカーターはファウズの存在を知らなかったので独自に猫の神様を創造したのだろう。
 ルルイエ探検の計画まで飛び出してスミスもノリノリだが、この頃が「ラヴクラフト・サークル」のもっとも幸福な時期だったのではないだろうか。翌年からはロバート=E=ハワードとラヴクラフトが相次いで世を去り、哀切さばかりが一気に募っていくことになる。