新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

底辺作家ラヴクラフト

 ジェシカ=アマンダ=サーモンソンによる短い随筆をW.H.パグマイアが紹介しているのをThomas Ligotti Onlineで見かけた。1976年、パグマイアの依頼で同人誌のために書いたものだそうだ。「ラヴクラフト原理主義者が卒倒しそうな文章」とパグマイアは述べているが、どんな内容なのか少し抜粋してみる。

 とある真夜中の読書会で急に思いついたことなんだけど、ラヴクラフトとダーレスの合作はラヴクラフトの作品より優れているね。常にそうだというわけじゃないけど、ラヴクラフトが独りで書いた不器用で不格好な代物よりは大概ましだよ。たぶんラヴクラフトは怪奇文学の大家の中で最下位に近いところにいるよ── そもそもラヴクラフトが番付に載せてもらえていたらの話だけどさ──何しろラヴクラフトと来たら堅苦しくて自慢たらしくて、ひどく退屈だからね。でもダーレスはプロの作家だ。ラヴクラフトは決してプロにはなれなかった。彼は一芸に秀でているだけのみすぼらしい素人だよ。
(中略)
 ダーレスの方が優れた作家なのに、彼はラヴクラフトの影の中に囚われている。その影はダーレス自身が作り上げたものだ──ほぼ独力でね──そうすることでダーレスは自分の評判を下げてしまった。パルプの山に埋もれて消えかけているラヴクラフトを救い出すためなら、それくらいの代償は払ってもいいとダーレスは考えていたんじゃないかな。ダーレスがその戦いで犠牲にしたのは自分の名声だったんだよ。
 独創性を追求するより、この世にいない巨匠の模倣をしたがる作家志望の若い人たちにはいい教訓になるだろう。自分のものではない発想のためにダーレスは才能を使ってしまったから、彼の作品は一度たりとも正しく評価されたことがないんだ。ダーレスはラヴクラフトの未完の作品を親切にも完成させてやった人として、そしてラヴクラフトが着手すらしていなかった作品を書いた人として記憶にとどめられていくことだろう。自分自身のアイデンティティや特別な目的や能力の喪失ということを若手の作家たちはよくよく考えるといいよ──もしもクトゥルー神話小説やコナンとかの模倣作を書こうとしているのであればね。

Thoughts on August Derleth [Archive] - THE NIGHTMARE NETWORK

 ジェシカ=アマンダ=サーモンソンは我が国でもそれなりに有名だろう。サーモンソンとパグマイアの合作「蒼ざめた震える若者」が新潮文庫の『カッティング・エッジ』に収録されている。