新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

一抹の悲劇

 コリン=ウィルソンに"A Touch of Tragedy"というエッセイがある。ダーレスが他界した直後に発表されたもので、彼の住むソークシティをウィルソンが1967年に訪問したときのことが書いてある。ウィスコンシン州の小さな町でダーレスは人々から尊敬されながら静かに暮らしていたが、にもかかわらず彼が自分自身のために選び取った生き方には一抹の悲劇が感じ取れたとウィルソンは述べている。

ダーレスは19世紀に、開拓者たちの時代に、ソローやエマーソンやホイットマンといった人たちに確かな郷愁を感じていた。彼が愛していたのはシャーロック=ホームズ物語の霧深い雰囲気であり、ラヴクラフトのダニッチやアーカムに渦巻く霞だった。生来より故郷を愛しながら、ダーレスはどこか現代にそぐわないところがあった。

 ダーレスの純文学作品を精読したウィルソンは「彼はラヴクラフト以上に重要な人物、より大きな存在ではないだろうか」と語り、その理由を次のように綴っている。

ダーレスの外見は、大きくて気立てのよい熊を思わせるものだった。ダーレスと会話しただけでは窺い知れなかったのは、彼が人間を観察するときの鋭い眼差しである。さながらバルザックのような鋭利さであり、それゆえ彼はアーカム派の他の作家より遙かに水準の高い存在たり得たのだろう。

 ウィルソンがダーレスに負っている恩義を差し引いても、作家としてのダーレスに対する彼の評価はきわめて高いものである。だがダーレスのいた高みは孤高と呼ぶべきものであった。その業績にもかかわらず、彼もまたアウトサイダーだったのだろう。