新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ブランデージ異聞

 スプレイグ=ディ=キャンプの書いたラヴクラフト伝には次のような記述がある。

1933年から1938年にかけて、マーガレット=ブランデージ夫人はウィアードテイルズの表紙絵をほぼ独占していた。妖魔に脅かされる裸のヒロインの絵を何十枚も描く際に、彼女は自分の娘たちをモデルとして使っていた。ライトがラヴクラフトの作品を表紙絵の題材として採用したことは一度もなかったが、それはブランデージ家の令嬢たちが演じられるような女性が彼の作品に一人も登場しないからかもしれない。

 おもしろい逸話ではあるが、ウィアードテイルズの表紙を彩った裸の美女たちが実はブランデージの娘だったというのはホンマかいな。1930年代といえばブランデージ自身がまだ若く、彼女に娘がいたとしても年端もいかない子供だったはずだ――と眉に唾をつけていたら、案の定ロバート=ワインバーグがこの説の嘘を暴いていた。
http://rehtwogunraconteur.com/?p=6964
 そもそもブランデージに娘はいなかったというのだ。だが、ディ=キャンプはワインバーグから指摘を受けたにもかかわらず、ラヴクラフト伝の記述を修正せずに発表してしまったそうである。本当のことではなくても、おもしろいからいいじゃんという考えだったのだろうか。
 近年、ディ=キャンプはラヴクラフトやロバート=E=ハワードの研究家たちから厳しく批判されているが、彼には彼なりの功績があると私は思っている。しかし、ここで紹介した一件からも明らかなように、ディ=キャンプの書いたものは迂闊には信じることができない。どうにも困ったものである。

LOVECRAFT: A BIOGRAPHY

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