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主にクトゥルー神話のことなど。

ブリッシュとラヴクラフト

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 スタートレッククトゥルー神話はファン層がかぶっているのだろうか。「宇宙大作戦」のノベライゼーションで知られるジェイムズ=ブリッシュは若い頃ラヴクラフトと文通していた。
 『ネクロノミコン』を実作することを考えついたブリッシュはラヴクラフトに手紙で相談した。「あれは770ページ以上あるという設定なんですよね。そんな長い本を実際に書くのは私の手に余りますが、1章か2章だけ『抜粋』することならできるかもしれません」とラヴクラフトは1936年6月3日付の手紙で返事をしたという。結局ブリッシュは『ネクロノミコン』を書かなかったが、代わりに「もっと光を」(More Light)で『黄衣の王』のほぼ全編を「引用」して見せた。もちろん『黄衣の王』は架空の戯曲なので、引用の体裁をとりつつブリッシュ本人が自分で書いたのだが、殊能将之の『黒い仏』で引用されている童子の口上は「もっと光を」からの「孫引き」である。なお「もっと光を」はThe Hastur Cycle に収録されている。

黒い仏 (講談社文庫)

黒い仏 (講談社文庫)

The Hastur Cycle (Call of Cthulhu Fiction)

The Hastur Cycle (Call of Cthulhu Fiction)

 「もっと光を」の邦訳はまだないが、殊能氏のサイトで粗筋が紹介されている。*1これは一読に値するが、ラヴクラフトが『ネクロノミコン』を創造する際に『黄衣の王』を参考にしたというのは正しくないらしい。The Necronomicon Files によると、ラヴクラフトがロバート=W=チェンバースの短編集『黄衣の王』を初めて読んだのは1927年5月のことだが、『ネクロノミコン』が登場する最初の作品「魔犬」が執筆されたのは1922年9月なのだ。
Necronomicon Files: The Truth Behind Lovecraft's Legend

Necronomicon Files: The Truth Behind Lovecraft's Legend