新・凡々ブログ

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レサンドロの使い魔

 ロバート=E=ハワードがダーレスに宛てて書いた1936年5月9日付の手紙には、ダーレスの"Lesandro's Familiar"という短編への言及がある。

君の"Lesandro's Familiar"を大いに楽しませてもらいました。あれが一番いい作品で、他には取り柄のない号でしたよ。

May 9, 1936 to August Derleth

 ハワードが話題にしているのは"Lesandro's Familiar"が掲載されたウィアードテイルズの1936年5月号である。この号にはロバート=ブロックの「無貌の神」も載ったのだが、取り柄がないとは御挨拶だ。ハワードはブロックのことをあまり評価していなかったのだろうか。
 興味を覚えたので、Not Long for This World に収録されている"Lesandro's Familiar"を読んでみることにした。これは"Chronicles of the City-States"という連作短編の第3話で、魔術師レサンドロとチェーザレ=ボルジアの対決を描いている。ちなみに『ディナーで殺人を』所収の「イーモラの晩餐」は、同じ連作短編の第2話に当たる。"Lesandro's Familiar"の邦訳はまだないが、「イーモラの晩餐」と似たような雰囲気の話だと思っていただきたい。「無貌の神」とどちらが優れているかは議論の余地があるだろうが、とりあえず私はハワードの意見に賛成しておくことにする。
 なお、前述した1936年5月9日付の手紙はハワードの死の約1カ月前に書かれたものであり、彼がダーレスに手紙を送るのはそれが最後となった。追伸では「おいしいミントジュレップの作り方」の話などしていて呑気そうだが、年寄りになるまで生きていたくはないと冒頭には書いてあり、ハワードが自殺の決意を固めつつあったことが窺える。

ディナーで殺人を〈上〉 (創元推理文庫)

ディナーで殺人を〈上〉 (創元推理文庫)