新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

祖先

 ダーレスに「祖先」(The Ancestor)という短編がある。ラヴクラフトとの「合作」のひとつで、1957年にアーカムハウスから刊行されたThe Survivor and Others を初出とする。現在はThe Watchers Out of Time などの単行本で読むことができる。

The Watchers Out of Time: Fifteen soul-chilling tales by

The Watchers Out of Time: Fifteen soul-chilling tales by

 失業中のヘンリーは従兄弟のアンブローズに招かれ、彼のもとで秘書の仕事をすることになった。有能な医師であったにもかかわらず若くして隠棲したアンブローズが取り組んでいたのは、肉体を極端な飢餓状態に置きながら薬物を服用することによって記憶を遡るという実験。アンブローズは幼少期の記憶を通り過ぎて、母の胎内にいたときのことを思い出し、さらには自分の先祖の記憶に至っていた。そして──というのが「祖先」の粗筋だが、これはすべてラヴクラフトのメモに基づいている。ダーレスのプロ作家としての力量が発揮されて佳作に仕上がり、ラヴクラフトとダーレスの「合作」の中では最高傑作だ──といいたいところなのだが、ちと問題がある。ラヴクラフトが書き留めておいたのは彼自身の考えた物語ではなく、レナード=クラインの「暗い部屋」(The Dark Chamber)の粗筋だったのだ。ダーレスはそのことに気づかないで「合作」に使ってしまったのだった。ラヴクラフトの備忘録に書いてあることを利用するときは注意しなければならないとダーレスが僕に忠告してくれたことがあるが、彼は「祖先」の一件を念頭に置いていたのではないかという気がする──とラムジー=キャンベルは述べている。*1