新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

「インスマスを覆う影」に関するスミスの提案

 C.A.スミスがオーガスト=ダーレスに宛てて書いた1932年2月16日付の手紙*1より。

HPの「インスマスを覆う影」の原稿を受け取りました。1日か2日後にはワンドレイに回すつもりです。僕は「インスマスを覆う影」をたいへん気に入りましたが、頽廃的な雰囲気の演出が特にいいですね。もちろん、原稿をライトに送るようHPに強く勧めておきましたが、新しい章を付け加えてはどうだろうかと遠慮なく提案してしまいました。その新しい章は、現在の文章をほとんど変更することなく最終章の直前に挿入できますが、語り手が怪物の群に捕まってインスマスに連れ戻されるという切れ切れで悪夢めいた記憶から成っています。しかし海魔どもは語り手に危害を加えようとはしません。なぜなら彼が自分たちの仲間であることに気づいているからです。そして語り手の中で異界の血脈が発現するのを促進するための慄然たる儀式を彼に対して行ってから、彼を解放するのです。ですがラヴクラフトはこの提案を気に入ってくれないだろうと思います。

 「呪われた血」というモチーフを強調することにはダーレスも賛成だったようだが、結局ラヴクラフトはスミスの提案を採用しなかった。仮に採用していたら作品の雰囲気はいささか異なったものになっていただろう。