新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

バイオレット嬢の奇病

 イースの大いなる種族といえば精神交換である。これは標的の肉体を一方的に乗っ取る技だが、使う際に危険が伴ったりはしないのだろうか。"The Curious Case of Miss Violet Stone"によると、大いなる種族の精神が宿主の肉体に入りこんだまま出られなくなることがあるそうだ。
 "The Curious Case of Miss Violet Stone"はポピー=Z=ブライトとデイヴィッド=ファーガソンが合作した短編で、Shadows Over Baker Street に収録されている。これはシャーロック=ホームズとクトゥルー神話をモチーフにしたアンソロジーで、当然"The Curious Case of Miss Violet Stone"でもホームズが主役を務める。
 トーマス=ストーンという料理人の青年がベーカー街を訪れ、ホームズに助けを求めるところから物語は始まる。妹のバイオレットが3年前ギリシアへ旅行に行ってから食事を全然しなくなってしまったというのだ。まったく栄養を摂取していないにもかかわらず、バイオレットは幽鬼のような姿になりながら生き続けていた。しかし快活だった性格は一変し、『ネクロノミコン』を見つけてきてほしいと兄に頼んだりするようになってしまった。
 トーマスに懇願されてホームズがストーン家に赴くと、彼の姿を見たバイオレットは「あなたなら私を助けてくれる」という。ホームズに説明されてもワトソンにはちんぷんかんぷんだったが、少女の体に宿っていたのは大いなる種族の精神だった。大いなる種族の一員が3年前にギリシアでバイオレットと精神を交換したのだが、その精神は手違いのために彼女の体から抜け出せなくなってしまった。そして大いなる種族の意志に従うことを少女の肉体が拒んだ結果が拒食という形で現れていたのだ。
 バイオレットの姿をした大いなる種族は一冊の帳面をホームズに手渡す。それは大いなる種族とバイオレットの精神を再び入れ替えるための装置の設計図だった。ホームズはベーカー街で一室に閉じこもって帳面を読破し、数日後に装置を組み立てた。大いなる種族の超科学を理解できる人間などこの世にいるのかと訝る必要はないだろう。なぜなら彼はシャーロック=ホームズなのだから!
 完成した装置を持ってストーン家を再び訪ねたホームズは大いなる種族を解放し、バイオレットの体には本来の彼女が戻ってきた。バイオレットの兄と母親に深く感謝されながらホームズは仕事の後のくつろぎに浸るが、彼が何をしたのかワトソンにはさっぱりわからないのだった。

Shadows Over Baker Street: New Tales of Terror!

Shadows Over Baker Street: New Tales of Terror!

  • 作者: Neil Gaiman,Steven-Elliot Altman,Brian Stableford,Michael Reaves,John Pelan
  • 出版社/メーカー: Del Rey
  • 発売日: 2005/03/01
  • メディア: ペーパーバック
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