新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

スミス版「ハスターの帰還」

 「ハスターの帰還」についてダーレスから意見を求められたC.A.スミスは1937年4月28日付の手紙*1でたいそう丁寧に助言している。そのくだりを以下に訳出した。

 「ハスターの帰還」を二度読んで、たいへん関心を覚えました。これは実に注目すべき作品です。それでも、現状ではあまり満足できるものではないと思います。ひとつには、書くのを急ぎすぎたという欠点があります(こんな事情では不思議じゃありませんけど!)。第一級の怪奇小説の素材を含んでいる作品だけに残念なことです。提案があったら書いてほしいと君に頼まれましたので、感想を包み隠さず述べることにしましょう──もちろん僕の感想は他の読者のそれとは違うものかもしれませんが。君はラヴクラフト神話をあまりにもたくさん持ちこみすぎており、それを作品本来の部分に同化できていないという印象があります。読み返してみたところ、その印象は弱まるよりむしろ強まりました。個人的な趣味ですが、神秘的で「名状しがたい」ハスターだけを物語の中心にすれば、物語の統一性と力強さが増すでしょう。クトゥルーインスマスの海魔たちは、対立の要素と興趣を与えることを意図したものではありますが、むしろ混乱の元であるという印象を僕は受けました。漠然とした脅迫的な雰囲気や、不気味に増大する緊張感の怖ろしい効果は、ハスターを中心に発展させることができると思います。ほとんど未知の魔神であるという強みがハスターにはあるからです。また、ポール=タトルとハドンが懐疑的でいる時間が長いほど、その効果は深まるでしょう。奇怪な現象がいくつも生じて互いにつながり、他に説明の余地がなくなってしまうまで、古書の恐るべき含蓄やエイモス=タトルの証文の奇妙な追加条項を二人は事実として認めるべきではないのです。この物語で最良の部分のひとつは、危険にさらされた屋敷の地下で反響する足音についての記述です。足音は館の東側では徐々に高まっていき、上空で奇妙な雷のように反響し、西側では一定の順で降りていって再び地底の深みで木霊するようになるということにしてはどうでしょうか。そうすることによって、足音をはっきりとハスターのみと関連づけることができるでしょう。足音を聞いているものたちは、この循環が上空のアルデバランとヒアデスの運行と呼応していることにとうとう気づかされます。そのようにして、宇宙の彼方の住処からハスターが侵入してくることを予告するのです。エイモス=タトルの死体とその超自然的な変化の関するくだりにもっと手を加えてもいいでしょう。棺桶は内側から乱暴に破られたという証拠がなければいけません。野原の足跡は恐るべき大きさですが、伝説の巨人のもののように漠然と人間の形態を留めています。そして発見されたタトルの死体は破裂した穴が無数に開いており、あらゆる組織に超人的な膨張が生じたかのようです。未知の神性は死体を乗っ取ったものの、進行する腐敗のせいで役に立たないということにすぐさま気づいたのです。屋敷がダイナマイトで爆破される直前の山場では、ポール=タトルの姿形とハスターの異界的な奇怪さが入り混じった巨大な人影が立ち上がるということにしてもよいかもしれません。この異形は肉体が人間のものなので爆発で粉々になってしまい、ハスターはヒアデスへと引き上げていきます。彼の姿は不可視ですが、その慄然たる足音だけは聞こえます。ハスターに憑かれて信じられないほど巨大化したタトルの残骸が爆発の後に残ります。そして、それを発見した人々は恐怖におののき、目を背けながら大急ぎで埋葬を行います。僕の提案はこれでおしまいです。無価値で非実用的な提案かもしれませんし、君自身の概念にとっては異質すぎるかもしれません。他の読者の意見も聞かれることをお勧めします。現状でも、これまでにライトが採用した多くの作品よりすぐれていることは確かです。そして言葉の使い方が君らしくなく、しばしばHPLを思い出させるものだということにも同感です。

 なおラヴクラフトも「ハスターの帰還」のことを知っていたが、彼の助言は「がんばってください。ベテルギウスはグリュ=ヴォという名前にすればいいんじゃないの?」だった。