新・凡々ブログ

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鏡の中にある如く

 『デルタグリーン』シリーズの新刊Through a Glass, Darkly が発売されたので買ってみた。The Rules of Engagement の続編に当たるが、作者はジョン=タインズからデニス=デトワイラーに交代した。マジェスティック12の下部組織であるアウトルック=グループの基地をデルタグリーンが壊滅させた顛末がThe Rules of Engagement では語られているが、それから1年半ほど経過した2001年1月の下旬からThrough a Glass, Darkly の物語は始まる。
 外宇宙にアクセスすることによって現実を自在に変容させる方法を偶然にも発見した研究者ロバート=ラムスデンが物語の中心となり、そこにデルタグリーンとマジェスティック12の抗争が絡む。マジェスティックは異星人グレイと密約を結び、地球上における彼らの活動を黙認する見返りに技術供与を受けていた。ただしマジェスティックも一枚岩ではなく、主流派と反主流派に分裂している。グレイとの同盟を継続すべきだと考えているのが主流派、同盟の破棄を主張するのが反主流派である。主流派の優位が揺らいだことは今まで一度もなかったが、最近になってグレイとの連絡が途絶したため密約が形骸化し、マジェスティックは己の存在意義を見失いつつあった。なお、グレイの正体はミ=ゴの傀儡である。
 デルタグリーンはマジェスティックを人類の裏切り者と見なして戦いを挑んだが、マジェスティックは米国政府そのものといえるほど強大な組織であり、彼我の戦力差は絶望的なほどだった。アウトルックの基地を破壊したものの、デルタグリーンの頭脳ともいうべきA細胞はマシュー=カーペンターを失い、ジョゼフ=キャンプ博士も重傷を負って半ば引退を余儀なくされた。デルタグリーンが存亡の危機に立たされたとき、新しくA細胞に加わったのがマジェスティックの幹部ゲイヴィン=ロスである。ロスは反主流派の中心人物だが、単なる義侠心からデルタグリーンの面倒を見ることにしたわけではなく、マジェスティック運営委員長ジャスティン=クロフトとの権力闘争の手駒として彼らを利用する腹づもりだった。キャンプ博士はロスの魂胆を見抜いていたが、もはや背に腹は代えられなかった。かくして、デルタグリーンは局所的には勝利を収めながらマジェスティックの傘下に入ることになり、D細胞のフォレスト=ジェイムズ大佐はマジェスティックに移籍した。
 マジェスティックの実戦部隊は主に二つ、ブルーフライとNROデルタである。ブルーフライは異界の存在との戦いを任務とし、その性格はむしろデルタグリーンに近い。一方、NROデルタは非道なことで知られる集団で、統括指揮官のアドルフ=レプスはデルタグリーンの大敵だが、そのレプスですら怖れをなすのがデルタグリーンのC細胞に所属するドナルド=A=ポオだ。ポオとクロフトを交換で消すという条件でレプスはキャンプ博士と裏取引をした。レプスの差し金でNROデルタの隊員がクロフトを暗殺し、最高指導者を失ったマジェスティックは大混乱に陥った。
 ジェイムズ大佐はマジェスティックで雌伏の時を過ごしていたが、いたずらに日々を送っていたわけではない。海軍特殊部隊の元指揮官である彼は人望が厚く、密かにマジェスティック内部で同志を得ていた。ジェイムズ大佐の理念に共鳴したブルーフライの兵士たちはクロフトの死に乗じて決起し、マジェスティックの幹部を一斉に拘束した。何者にも干渉されないほど絶対的な存在と化したマジェスティックだったが、異常事態が発生しても上位機関が修正できないという弱点がいつの間にか生じていたのである。その結果がクロフトによる組織の私物化であり、さらにはジェイムズ大佐のクーデターだった。大佐は組織を掌握し、祖国および市民の防衛という本来の理念に立ち帰ることを宣言した。
 デルタグリーンとマジェスティックの抗争は衝撃的な逆転劇によって一応の決着を見たが、本作ではキャンプ博士の最期も語られている。一切を思念の力で操る技術を発見したラムスデンは人格者だったが、ラムスデンの同僚であるヴィンセント=ギャリティが彼の発見を悪用しようとしていた。キャンプ博士はポオとジェイムズ大佐に後事を託し、ラムスデンと共闘してギャリティに立ち向かう。現実改変能力を持つ敵とどう戦うのかと思ったのだが、何と旧神の印で普通に封じこめていたので驚いた。旧神の印は凡人にとっては頼りない道具でしかないが、キャンプ博士ほどの人物が使えば圧倒的な威力を発揮できるということらしい。
 ラムスデンとギャリティが刺し違えたのを見届けたキャンプ博士は凶人レプスをおびき寄せ、対決する。ポオを売り渡すというキャンプ博士の約束は嘘だったらしいとレプスは気づいたが、80歳を超した博士に負ける気はしなかった。しかし、そのとき彼の耳に聞こえてきたもの――それは魔皇を慰める笛の音だった。アザトースの宮廷へと敵を自分もろとも連れ去ってしまうという奥の手をキャンプ博士は発動させたのだ。花道を飾らせようということなのか、まさに大活躍である。キャンプ博士はラバン=シュリュズベリイ教授と違って超人ではないはずなのだが、この究極奥義には度肝を抜かれた。
 キャンプ博士とレプスは二度と戻ってこなかった。ポオが博士の後を継いでデルタグリーンを率いる一方、ジェイムズ大佐は新生マジェスティックの首領に就任し、二人の会見を描いた短いエピローグで物語は幕を閉じる。大逆転を果たしたものの、依然として前途は多難だ。マジェスティックという巨大すぎる組織をジェイムズ大佐は御しきれるのか。ちゃっかり生き延びたロスは今のところ大佐に協力しているが、彼が新たな火種になるということも考えられる。しかし、ともかくデルタグリーンの戦いは続いていく。すでに新作の準備も始まっているということなので、今後も楽しみだ。

Delta Green: The Rules of Engagement

Delta Green: The Rules of Engagement

Delta Green: Through a Glass, Darkly

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