新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ヴォルガ川の出来事

 ダーレスとマーク=スコラーが合作した短編に"The River"というのがある。ウィアードテイルズの1927年2月号に掲載されたもので、ダーレスの最初期の作品ということになる。
 ヴォルガ川にダムを建設するために英国から技師が呼ばれた。モスクワ大学の元教授が工事に反対し、川の流れを妨げるものは精霊の怒りに触れるという伝説を語るが、笑い飛ばされてしまう。背中の曲がった狂人が現れ、「今宵、彼らは歌う!」と叫んだ。「彼ら」というのは、革命前に貴族の船を曳かされていた奴隷たちの亡霊で、その歌声が聞こえるとき人が死ぬのだ……。
 というわけで、話自体はどうということもないのだが、ソビエト連邦が舞台になっている点が実に珍しい。ダーレス君は社会主義思想に詳しいとラヴクラフトは述べているが、この作品にも戦間期の西側諸国とソ連邦の関係が反映されているのだろう。ホフマン=プライスもパルプ作家の仕事に見切りをつけ、モスクワに引っ越して溶接工になろうかと考えたことがあるという。*1