新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

エーテルの小悪魔

 寺田旅雨さん(id:servitors)のTwitterから。

 BLとは違うかもしれないが、男の子同士のカップルが出てくるクトゥルー神話小説としてはW.H.パグマイアの"The Imp of Aether"がある。ダーレスに捧げられた掌編で、Sesqua Valley & Other Haunts に収録されている。
 物語の舞台となるセスカ峡谷はパグマイアが創造した架空の地名だ。北米大陸の西部にあるという設定で、様々なあやかしに満ちた地である。ダニッチをもっと耽美的にした感じの場所とでもいおうか。
 "The Imp of Aether"は"Born in Strange Shadow"の続編に当たる。前作で天才詩人リチャード=ランドの狂気と死を見届けた語り手のアダム=ウェブスターが、欧州から帰ってきた恋人のワイラス=シェイクストンを出迎えるところから話は始まる。
 ワイラスはオランダで何かを発見してきたらしく、火を操る魔女の伝説について熱く語る。その魔女の主こそは大邪神クトゥグアに他ならない。アダムはワイラスを魔女や炎の精から引き離そうとするが、ワイラスはオランダ語で何事かを詠唱しながらアダムを殴りつけて昏倒させる。
 意識を取り戻したアダムは書斎でワイラスを見つける。ワイラスは魔法円の中に横たわり、彼の上には何者かが屈みこんでいた。アダムの見ている前でワイラスは灰になっていく。ワイラスだった灰が吹き払われ、アダムの口の中に舞いこんできたとき、彼は思うのだった──ああ、ワイラスの味だ……。
 粗筋だけ説明してしまうと大したことがないが、実際はなかなか趣のある作品だ。なお"The Imp of Aether"の後日談として"The Heritage of Hunger"なる短編があり、アダムがリチャード=ランドの足跡を尋ねてアーカムを訪れた顛末が語られている。前二作では怖ろしい出来事の見届け役を務めるだけだったアダム=ウェブスターの正体が明らかになり、掉尾を飾る作品として心憎い出来映えだ。
Sesqua Valley & Other Haunts

Sesqua Valley & Other Haunts