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主にクトゥルー神話のことなど。

ジェロボーム=ヘンリーの負債

 チャールズ=R=ソーンダーズに"Jeroboam Henley's Debt"というクトゥルー神話短編がある。1982年に発表された作品で、現在はインスマス=フリープレスのサイトで無償公開されているほかThe Book of Cthulhu でも読むことができる。
www.innsmouthfreepress.com
 ハワード大学のセオティス=ネデュー教授は友人のジェレミア=ヘンリーに呼ばれ、カナダにやってきた。ヘンリーの祖父ジェロボーム=ヘンリーは、逃亡奴隷がカナダに亡命するのを援助し、偉人と称えられている人物だ。しかし応接間の壁に掛けてあったジェロボームの肖像画が取り外されていることにネデューは気づき、いったい何があったのかとヘンリーに訊ねる。祖父の遺した記録を見つけ、彼が奴隷たちを裏切っていたことを知ったのだとヘンリーは打ち明けた。ジェロボームは亡命の手助けをすると見せかけつつ一部の逃亡者をルイジアナの農園主に売り渡していた。その農園で奴隷たちがシュブ=ニグラスへの生贄にされていたことを知って衝撃を受けたヘンリーは祖父の肖像画を焼き払ってしまったのだ。
 それだけでは済まなかったとヘンリーは語る。祖父の犠牲になった人々の中には、アフリカからやってきた魔術師がいた。彼はジェロボーム=ヘンリーを呪い、子々孫々まで報いを受けることになるだろうと予言したという。そして最近、ヘンリーの家の周りで家畜が怪死するようになった。怨霊が血肉を得て、自分のところへ復讐しに来ようとしているのだとヘンリーは考えていた。
 アフリカ魔術に精通しているネデューは、不思議な粉末を用意して怨霊を待ちかまえる。彼が豹の骨で砂を叩くと、血にまみれた怪物が現れた。その怪物が祖父ジェロボームの顔をしているのをみて、ヘンリーが悲鳴を上げる。ネデューは粉末を怪物の顔に叩きつけ、怪物はどろどろに崩れ去って滅んだ。ヘンリーは安堵の息をついたが、ネデューは彼の首をつかんで無慈悲にも骨をへし折った。ジェロボーム=ヘンリーがルイジアナに売り渡した魔術師、彼はネデューの先祖だったのだ。
 ネデューはヘンリーの屋敷に火を放って立ち去る。目指す標的はあと一人、ルイジアナの農園主の子孫だ。ネデューが友のために涙を流そうとしても、先祖の霊が許してくれないのだった……。
 よくあるオカルト探偵ものかと思いきや、意表を突かれる結末だった。作者のソーンダーズがアフリカ系であることは昨日の記事*1で申し上げたとおりだ。なおソーンダーズの作品では「フェチットを越えた男」が邦訳され、新潮文庫の『ナイト・ソウルズ』に収録されている。

The Book of Cthulhu

The Book of Cthulhu

2021年1月3日追記

 ソーンダーズはカナダのノバスコシアで隠棲していたが、2020年5月に亡くなった。
www.cbc.ca
 当初は身許不明者として埋葬されていたが、彼の死を知ったファンの寄付により、ふさわしい墓碑が改めて建立される予定だという。冥福を祈る。